テクノロジー

2016.10.17 15:00

遠隔診療「ポケットドクター」1万人を、世界に

MRT株式会社 代表取締役社長 馬場稔正(写真=アーウィン・ウォン)

MRT株式会社 代表取締役社長 馬場稔正(写真=アーウィン・ウォン)

日本の医学の最高峰・東京大学医学部。その中にある食堂や医局に一人潜伏し、5,000人以上の医師と面談を続けた男がいる。医療従事者の人材紹介サービスで成長しているMRT代表取締役社長の馬場稔正だ。馬場自身は医師ではないが、大学時代に交通事故で生死を彷徨った末、医師に命を救われた経験から、大学卒業後、病院チェーンを展開する国際医療福祉大学グループに就職。病院のM&Aに従事する中で東大の医師であり、現在MRT会長を務める冨田兵衛と出会い、医療現場の問題を知る。

「大学の医局員たちは様々な医療施設に当直として派遣されていますが、行けない場合は、同僚の医師を通じて代わりの医師を探すという非効率的な状況がある。それなら、医師のメーリングリストを作って、“診療可能な医師”と“医師を必要としている施設”をウェブ上で人材マッチングさせれば効率的だと考えたのです」

当初、東大で集めた医師のリストは、東京を中心に増え続け、今や約2万人が同社のマッチングサービスに登録。医師は毎日紹介される約500の医療施設の中から適切な施設を選んで診療に出向いている。このサービスで2014年12月に同社を東証マザーズ上場に導いた馬場が4月から展開を開始したのが、どこからでも気軽に医師に相談ができる遠隔診療・健康相談サービス“ポケットドクター”だ。

「重要な会議を前に、腹部の激痛に襲われ、病院に駆け込みましたが、待たされるわ、専門外の先生に対応されるわで、すぐに治療を受けられませんでした。しかし、知人の医師に電話すると“30分安静にして治らなければ救急外来へ行くように”というアドバイスを即座に得られ、これだ!と思ったんです」

現在、このサービスには150名の医師が登録、オンライン予約された時間に、相談者に電話をして遠隔健康相談を行っている。専用のアプリで、スマホに映し出された患部の画像を拡大したり、赤ペンを入れたりして相談者に説明することもできる。年内には、予約なしに24時間365日、いつでもどこからでも即座に遠隔健康相談ができるサービスも提供する予定だ。目標は、19年までに約1万人(日本の医師の10%)の医師たちを“ポケットドクター”にすること。

「将来は、このサービスで医療にアクセスできない貧しい国の子供たちも救いたい」。馬場の思いは地球規模で広がっている。

ばば・としまさ◎1973年、福岡県出身。英国国立ウェールズ大学経営大学院修士課程修了。日本医療サービスを経て、メディカルリサーチアンドテクノロジー(現MRT)に参画し、2010年より同社代表取締役社長。

文=飯塚真紀子

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