指数関数的に進化する最新の「エクスポネンシャル・テクノロジー」を駆使した、次世代の自動車・交通機関像-。
米電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が今年7月に発表した10年ぶりの「マスタープラン」には、そんな表現がぴったりだ。
自動運転機能のさらなる開発、自家用車にとどまらず、トラックやバスといった輸送車両の生産、使っていないときのテスラ車を共有するカーシェアリングサービス・プログラム、そして、目玉は、米太陽光発電ベンチャー企業、ソーラーシティの買収による太陽光エネルギーとEV事業の合体だ。
8月1日、テスラは、マスクが最大の株主でもあるソーラーシティと、約26億ドル(約2,642億円)での買収合意に達したと発表。EVと電池の生産規模拡大をにらみ、ネバダ州北西部に蓄電池製造工場「ギガファクトリー」を建設中だ。太陽光パネルを製造するソーラーシティとのコラボレーションの下で再生エネルギーを進め、100%環境に優しい電気自動車の製造を目指す。
技術革新と起業論を専門とするトロント大学ロットマン経営大学院のジョシュア・S・ガンズ教授によれば、マスクの「究極の目標」は化石燃料の使用削減だ。
「太陽光発電を自前で行い、蓄電池と併せて販売する。野心的で大胆な計画だ」(ガンズ教授)。『ディスラプション・ジレマ』(破壊のジレンマ/未邦訳)の著者でもある同教授は、「2産業の合体がさらなるイノベーションを生むと、マスクは考えている」と指摘する。
アリゾナ州立大学リスクイノベーション・ラボの責任者で、技術革新や責任のあるイノベーションなどを専門とするアンドリュー・メイナード教授も「先見性と洗練さに富んだプランだ」と評価する。
「新テクノロジーにとどまらず、インフラごと構築する。社会の機能のし方まで変えうるプランだ」(同教授)
メイナード教授いわく、テスラのマスタープランは、自動運転やA(I 人工知能)、運転支援機能「オートパイロット」の向上を可能にするクラウドソース型データ分析、シェアリングエコノミーなど、最新テクノロジーを「自然融合」させた”宝箱のようなプラン”だ。
「太陽光テクノロジーにシェアリングエコノミーのような社会的テクノロジーを融合させることで、本物のイノベーションが始まる」(メイナード教授)
車の「所有」という従来の概念を覆しうるテスラのカーシェアリング・プログラムは、詳細までは明らかでないものの、さながら自動運転EVのウーバー版といったところか。使わない車を止めておく駐車場スペースなど、資源のムダを解消でき、購買の投資対効果もアップする。
「既存の自動車市場という概念を超え、都市やエネルギーシステム、環境への影響までも再構成するような計画だ」(ガンズ教授)。テスラは、日本車や韓国車に後塵を拝してきた米自動車産業に再び世界の耳目を引き付けた点でも、評価できる。通常、「破壊者」は、まずローエンド層を対象にするものだが、ハイエンドから始めたという意味で従来の「破壊」という概念と異なる点も、注目に値する。