パンク寸前の医療財政を救う、3つのビジネスモデル

illustration by ichiraku / Ryota Okamura

アメリカの大統領選、イギリスのEU離脱、そして日本で語られる共通の悩みは何か?答えは、パンク寸前の医療財政。「破壊的創造」のクリステンセン教授がこの難題に挑む。

2011年、私はハーバード大で『イノベーションのジレンマ』の著者、クレイトン・クリステンセン教授の講義を6日間にわたり聴く機会を得た。クリステンセン教授は、前年脳卒中になったために、時々言葉が出ない。それゆえに彼が伝えようとする一言一言が心に響いた。

かつて巨大だったコンピュータがスマホのような身近な日用品になったことを例に、教授はこう言う。

「ビジネス界では、このような破壊的イノベーションが繰り返し起こっている。しかし医療は、安価で質が高く、すぐに診てもらえるサービスへと進化していない」

そして、医療は古くからある病院・診療所モデルから、3つのビジネスモデルに分化するべきだと主張する。

第一は問題解決型。例えば、どこを受診してもなかなかよくならないぜんそく患者。彼がデンバーにある国立ユダヤ医療研究センターを受診すると、独自の検査を一通り実施したうえで、いろいろな科をたらい回しされるのではなく、患者のもとにアレルギー、呼吸器、耳鼻咽喉科の専門医が集まり、精密な診断と明確な治療が伝えられる。

偶然にも私はこの病院を医学生時代に見学していた。プロが見てもありえないくらい詳細な免疫細胞検査を院内オーダーできる。「同じぜんそくという診断でも、精密に診ていくと、病因・病態はみな異なる。精密な診断に基づいた正しい治療をしないと患者は治らない」と語ってくれた医師の言葉。30年前の記憶が甦る。

第二は標準治療型。一度精密な診断がつけば、やるべきことは決まってしまう。例えば膝手術専門病院。1種類の医療行為に特化することにより合併症を少なく、間接経費を半減できる。また、インフルエンザやアレルギーの診断、ワクチンといった簡単なものは15分程度で終了するミニッツ・クリニックも有効だ。米国では、このモデルが登場して久しい。

第三はネットワーク型。これは、人々を健康にすることで利益を得る仕組みである。イギリスではキャピテーションという「かかりつけ医」システムをとっているが、必ずしもうまくいっていない。このモデルを疾病発生につながる生活習慣の改善に応用できないだろうか?

以下は私案である。生命保険会社がスポーツジムとタッグを組む。ありきたりな健診ではなく、最大酸素消費量など心肺機能や筋力、瞬発力を毎年チェックし、これに応じて保険料を安くする。

禁煙して体重をコントロールしなければトレーニングはきつい。マラソンで完走した、富士山に登頂した、ボランティア活動に従事した云々でも保険料を安くする。自然と行動変容が起こり、疾病発生を予防できる。

医療費が高騰する現代、パラダイムシフトが必要だ。

浦島充佳◎1962年、安城市生まれ。東京慈恵会医大卒。小児科医として骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。その後、ハーバード公衆衛生大学院にて予防医学を学び、実践中。

文=浦島充佳

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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