国連の日本人ナンバー2が語る、「世界の不条理」に私が教わったこと

国連事務次長補/国連開発計画総裁補/危機対応局長 中満 泉(photo by Aaron Kotowski)

「彼女は失敗を肥やしにできる力があり、経験から交渉術に磨きをかけている」ミスター国連こと明石康がそう評するのが、かつての部下、中満泉だ。

国連の危機対応局長には、日本の若い女性たちからメールが届く。

「一度、お会いしたい」「お話をお伺いしたい」

局長室はニューヨークの国連本部ビルの真向かいにあり、その椅子に座るのが日本人女性、中満泉だ。「会う暇なんか、ないでしょ?」と聞くと、中満は「学生さんのグループにはできるだけ会おうと思っているんですけどね」と言う。

中満は2014年まで国連PKO局アジア中東部長として、アフガニスタンを含むアジア全域、シリアを含む中東全域を主管した。PKOの名の通り、平和維持を必要とする厄介な紛争地ばかりだ。

その後、国連事務次長補とUNDP(国連開発計画)総裁補を兼ねる形で、危機対応局長に就任。日本人としては、外務省出身の高須幸雄事務次長に次ぐ、第2位のポストに立つ。叩き上げの日本人女性が国際的なリーダーになったことで、中満のような仕事をしたい女性たちが「会いたい」とメールを送ってくるのだ。

実は、国連や国際NGOなど、海外に自分の居場所を求める日本人女性は多い。中満の元部下で、現在、スーダン南部に滞在するPKO局の政務官、石川直己は、こんな話をする。

「僕は2006年から国連で働いていますが、平和と安全に関わる部門の幹部は全員女性でした。また、日本人職員の中でも女性の割合は多いです。一方、学生時代の友人からは『お前、なんで外国に行くの?』と不思議がられました。日本人男性は日本にいた方が出世しやすいからでしょう。優秀な男性は国内に残り、優秀な女性は海外に出ると言われます(笑)」

それはこうも言い換えられるだろう。男は出世や社会的地位を目標とし、女は自分の役割が活かせる場所を求める。その結果、いつの間にか国内から女性の「頭脳流出」という現象が起きている、と。

女性たちが憧れる国連は、しかし、巨大な官僚機構である。足の引っ張り合い、大国の利害の衝突、複雑な人間関係など、高邁な理想とは裏腹の駆け引きが渦巻く。

「国連本部にもイヤなことはいっぱいありますよ」と、中満は言う。だが、迷いなく彼女はこう言い切るのだ。「でも、やめたいと思ったことは一度もありません」

それは、世界中の“最悪”を相手にしながらも、そうした現場で魅了されることがあったからだと、彼女は語り始めた。
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文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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