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2016.09.02

バブル時代のリメイク権はいまや「おとぎ話」 是枝裕和監督インタビュー -part2-

是枝裕和監督(写真=テラウチギョウ)


——確かリメイクが売れて10年が経ったころに、「脚本は4稿目にしてようやくおもしろくなりました(僕のところにも脚本が来るのです。修正する権利はもちろんないけれど意見を言うのは自由です)。監督候補はディズニー映画『魔法にかけられて』を撮ったケヴィン・リマ。しかし、いつ制作に入るのかはまだちょっと未定です」という発言をされているのですが、あれから5年以上が過ぎて、まだ実現していません。企画がストップしているのですか?

是枝 一応まだ「開発中」ということにはなっていますが、残念ながら動いている気配はない。毎年、世界の映画製作会社から「『ワンダフルライフ』のリメイクをつくりたい」というありがたい問い合わせがあるのですが、僕たちは「20世紀フォックスに問い合わせしてください」といわないといけない。20世紀フォックスも、自分たちが買った金額とはいわないまでも、なるべくそれに近い金額で売ろうとするから、どこも買えないんですよね。

——つくらないし、他に売らない(売れない)。だからリメイクが誰もつくれないというのは不幸ですね。

是枝 リメイク権を買うというのが、「新しく発売された原作をとりあえずおさえる」という感覚と一緒なんですよね。映画をつくろうという発想ではない。ただ、期限をつけとくと少しは違うかな。『ワンダフルライフ』は25年という期限で渡してしまったんですが、『そして父になる』は3年で区切って、その後は更新するかしないかという契約なんです。つまり、リメイク権の金額が安い代わりに、期限が短い。

——では、『そして父になる』のリメイクが成功したら、『ワンダフルライフ』も動くかもしれないですね。

是枝 そうですね、光が当たる可能性はあるかもしれない。あとは、僕が新作でアカデミー外国映画賞を受賞しましたとなれば、動く可能性があるかも(笑)。ホント、がんばらないといけないです。

——ちなみに下世話な質問で失礼ですが、『そして父になる』のリメイク権の金額は覚えていらっしゃいますか。

是枝 プロデューサーに聞いたけど、いくらだったかな。興味なくなっちゃって(笑)。『ワンダフルライフ』のときはリメイク権で製作費をカバーできたから、それは本当に大きい存在だったけれど、『そして父になる』はありがたいことに国内の興収が大きかったので……。いまはそれぞれ、無事に映画化されることを願っています。


”世界のコレエダ”が語る映画にまつわるお金の話
- Part1 -
「映画を黒字化するために」はこちら
- Part3 - 「リベンジを果たせた最新作」はこちら



『映画を撮りながら考えたこと』

是枝裕和・著 ミシマ社刊 416ページ 2,400円(外税)

インタビュー・構成=堀 香織

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