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2016.08.31

薬価つり上げで製薬界炎上 エピペン問題に見る米医療制度の3課題

Amy Kerkemeyer / Shutterstock.com

米国では先週から、急性アレルギー注射薬「エピペン」の価格を大幅に引き上げ続けた米製薬会社マイランに対する非難の声が続出している。だが、こうした医薬品の値上げは、米国の製薬業界では珍しいことではない。

多発性硬化症薬の「レビフ」や「アボネックス」の価格は2013年までの10年で600%増加。糖尿病患者が使用するインスリンの価格は02~13年の11年で3倍に、ノバルティスの画期的ながん治療薬「グリベック」の価格は2001年に登場してから現在までの15年間で3倍以上に増加した。広く用いられている抗精神病薬「エビリファイ」の価格は、2013年までの8年間で2倍以上になった。

1年前、元ヘッジファンド経営者のマーティン・シュクレリが原虫感染症治療薬「ダラプリム」の価格を50倍に引き上げて批判を浴びた際には、彼が業界にとって新参者だったことから、製薬各社は危機感を抱かなかった。だが、エピペン値上げ問題で渦中にあるマイランは、世界大手の製薬会社であり、さらにCEOのヘザー・ブレシュは上院議員の父を持つ元ロビイストという、筋金入りの業界人だ。

今回の問題によって、医療制度自体に内在する問題点が浮き彫りになったはずだ。以下に、米医療制度が直面する課題を3つ挙げ、それぞれの解決策を提案したい。

薬価に関する透明性の欠如

市場は通常、人々が商品の価格を把握していれば、より効率的なものになる。だが米国では、医薬品の実勢価格は公表されず、消費者が知ることができるのは定価のみだ。企業の医療保険プランや保険会社は、エクスプレス・スクリプツやCVSといった薬剤給付管理(PBM)会社による製薬会社との交渉を通じ、値引きを受けることができる。定価を支払っているのは、保険未加入の人のみだ。

集中砲火を浴びた製薬会社が最初に告白することの一つが、医薬品の平均実勢価格だ。マイランのブレシュCEOはCNBCテレビの番組で、定価では600ドル以上とされているエピペン2本入りセットについて、値引き後の実勢価格は275ドルだと明らかにしている。
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編集=遠藤宗生

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