独占密着! グーグルの新CEOが描く「AI」で動くデジタル世界

グーグルCEOのサンダー・ピチャイ(Photo by Ethan Pines)


「グーグル・ブレイン」内で進化するAI

ピチャイが“AIで回る世界”を築く拠点が、グーグル本社からひとつ通りを隔てた所にある目立たない2階建てのビルだ。そこに入る研究開発部門「グーグル・ブレイン」が、同社とそのプロダクトを未来に導くAIの開発に当たっている。
 
グーグル・ブレインは4年ほど前に設立された。ディープラーニングやニューラルネットワークと呼ばれるAIのプログラミング技法を研究し、実験するためである。じつは何年も前にコンピュータ科学者たちによって開発されていたのだが、膨大な演算能力が必要だったために適切なテストが行われてこなかったのだ。グーグルにはそれだけの設備があったので、大規模演算システム部門の主任エンジニアだったジェフ・ディーンが、AIの専門家たちと手を組むことになった。彼らがシステムの画像認識能力を高めると、その成果は直ちに実を結び、グーグルの既存の手法を大幅に改善した。
 
1年前にリリースされた「グーグルフォト」は、そうした改善点を生かした一般向けのプロダクトだ。画像を認識・検索し、自動的に整理する能力はIT業界をうならせた。グーグルフォトを使えば、ユーザーは特定の人物や動物などを検索できる。ライバル社との競争は激烈だが、グーグルフォトはすでに2億人のユーザーを獲得している。ピチャイにとって、これはよりよいAIがいかにグーグルの勝利に貢献するかの典型的な例だ。

「人々はほかの写真関連プロダクトを使っていたか? 答えはイエスです」と、ピチャイは話す。

「では、グーグルフォトに惹かれ、乗り換える人が大勢出ているか? それもイエスです」

グーグルのある実験チームは、グーグルフォトの画像認識技術を使って虹彩のスキャン画像を調べることで、失明に至る眼病の糖尿病網膜症を効果的に見つけ出している。

「これは重要な変化ですよ」と、ディーンは言う。

「会社中に噂が広まっています。このやり方(AI技術)で新たに問題が解決できるのではないか、と」

少人数で始めた研究プロジェクトが、今では数百人規模にまで成長した。
 
その結果、社内には現在、グーグル・ブレインの成果をさまざまなプロダクトに応用する計画が2,000以上も存在する。ディーンのチームは機械学習の勉強会を開き、グーグルの何千人にも及ぶエンジニアたちが何週間もかかる講義を受けてきた。AIの専門家で、ピチャイから検索部門のトップに指名されたジョン・ジャナンドレアは、「研究プロジェクトだったものが、エンジニアリング活動の本流になった」と語る。

ライバル社がこぞって「AIで回る世界」へなだれ込もうとしているものの、ピチャイにはグーグルが先行しているとの確信がある。彼は世界最強の棋士に勝った同社の人工知能「AlphaGo(アルファ碁)」を引き合いに、リードを守るための投資はぬかりなく行っていると語る。

「機械学習やAIに目を向ければ、今すぐできることと、2〜3年以内にできること、そしてさらに長い時間のかかることがあります」と、ピチャイは言う。前出のヨフィー教授のような外部の識者も、今の世界がAIで回る世界へ移行する過程で、グーグルがよい位置につけていると認める。

「サンダーは的確なカテゴリーに飛び込み、いくつもよい決断を下しています」とヨフィーは語る。ただ、こうも付け加えている。

「もっとも、彼はまだ本当の意味では試されてはいませんけれどね」
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文=ミゲル・ヘルフト、翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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