「ロボットは必要ない、早く帰れば生産性は上がる」―UN Women事務局次長

UN Women ヤニック・グレマレック事務局次長


谷本:北欧の国々などは、すでにジェンダー問題を解決したという人がいますが、それは本当でしょうか。

グレマレック:私はそう思いません。たとえば世界銀行が行った調査によれば、173か国のうち少なくとも155か国で、経済活動において女性への差別があります。教育によってジェンダー平等と女性エンパワーメントをある程度達成した国々はあるものの、まだあらゆる国に大きなギャップがあります。

谷本:ジェンダー平等のために、日本で取り組むべき最も深刻な問題は何でしょうか。

グレマレック:現状のままの日本では、育児や介護、家事の負担を減らし、女性の労働市場参入を増加させるのはとても難しいでしょう。男性が会社への献身を見せるために夜中まで働かなくてはならないからです。男性は疲れ切っているので生産性は低く、家で子ども達の面倒をみることができない。そして育児や家事のほとんどが女性にのしかかっています。

これでは男性も女性も子供も不幸で、誰にとっても良くないですね。社会としての生産性も低い。政府がこれだけ熱心にウーマノミクスを推奨する所以ですが、制度と人々のマインドセットを変えなければ、根本的な変化はおきません。

一番大切なことは、社会インフラやサービスに投資をし、育児や家事の負担を軽減することだと私は思います。働く時間を増やすことでなく、時間当たりの生産性を高めること。男性であれ、女性であれ、家族の面倒を見たり社会に貢献するために、社員が4時や5時に帰宅しても誰も批判をしないこと。それは会社にとって良いことです。なぜなら、従業員はより創造力に富んだ仕事をするようになるからです。

谷本:日本では高齢化が進んでいるため、ロボットなどを使って生産性を上げようという考えもあります。

グレマレック:生産性を上げるためにロボットは必要ありません!働く時間を短くし効率性と幸せ度を上げるだけでいいのです。夜はゆっくり休み、家族と朝6時に起きるだけで、生産性が上がります。

日本は、どちらか決めなくてはなりません。今までのように、低い生産性を批判されながらも会社への献身を見せるためだけに夜中まで働くか、早く帰宅し親や子どもの面倒をみて健康的で幸せな生活を送るのか。ロボットのことよりも、そのことを考えてみてください。逆にロボットが介護や育児をすることによって、人間が夜遅くまで働かなくてはならないとしたらひどい話です。

谷本:最後に、ジェンダー問題を解決するために、日本人へ向けてアドバイスがあればお願いします。

グレマレック:女性に向けてのアドバイスは、自分を信じること。できると信じてください。男性へのアドバイスとしては、変化を恐れないということですね。ジェンダー平等は女性にとってだけでなく男性にとっても得るものが多いものだからです。
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ヤニック・グレマレック(Yannick Glemarec)◎パリ大学 環境科学 博士課程修了、水文地質学と経営管理学で修士課程修了。国連開発計画(UNDP)地球環境ファシリティ(GEF)ユニット執行調整官/ UNDP政策立案局環境資金・環境エネルギー部部長)、国際開発計画(UNDP)マルチ・パートナー信託基金エグゼクティブ・コーディネーターを経て現職。

インタビュアー=谷本有香 構成=星野陽子 写真=藤井さおり

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