スタンフォード大学ティナ・シーリグ教授が語る「情熱とスキルと市場の重なるところ」

スタンフォード大学 ティナ・シーリグ教授(Photograph by Jan Buus)


私は最新刊『夢をかなえる集中講義』のなかで、世界8億人に清潔で安全な飲料水を届けることを目標にNPO「チャリティー・ウォーター」を立ち上げたスコット・ハリスンの物語を書きました。ナイトクラブのプロモーターとして客を集めては泥酔させる生活をしてきたスコットが「自分が知っている人間の中でいちばん惨めで最低な人間だ」と自覚し、すべてを変えたいと動き続け、情熱を注げることを見つけたという話です。ここで伝えたかったのは、「情熱の見つけ方」です。

自分の生き方に嫌気がさしたスコットはまず、困った人を助けたいと、慈善団体でボランティアしたいといくつもの団体に頼みました。ただ、およそ人のために汗を流せる人間に見えなかったため、断られ続けます。そんななか、唯一受け入れられたのが、最貧国に赴き無料で医療サービスを行うNPO「マーサー・シップ」。 旅費を本人が負担すれば、という条件でしたが、スコットはこの機会に飛びつきました。

彼は西アフリカのリベリアに行き、医療サービスを受けた患者の話をまとめる仕事を任され、ひどい疾患に苦しむ人たちに数多く出会いました。彼は、苦しむ人たちの多くがバクテリアや寄生虫、下水などで汚染された飲料水が原因だということに気がつきます。

「自分ができることは何だろう」ー。アメリカに戻り、考え抜いたスコットが出した結論が冒頭のNPOの設立です。スコットのミッションは「清潔で安全な水を多くの人に届ける」。それからは、クラブのプロモーターとして身につけたスキルを活かして、世界中の人々から支援を得るべくかけずり回り、情熱を持って語り続け、有名企業の幹部からの支援の約束を取り付け、さらに支援の輪を広げてくれました。

なぜ、私がこの話を引用したのでしょうか。それは、大切な教訓があるからです。

その答えは、情熱は後からついてくるものであり、やってみるのが先だということ。 情熱を傾けられるものを見つけようと、内へ内へとこもる人たちがよくいますが、彼らは「行動してはじめて情熱が生まれるのであり、情熱があるから行動するわけではない」ということを見落としてしまっています。

実際に経験し、想像力が刺激されることで、自分はこうしたい、こうありたいといった最高のビジョンを描くことが できるようになる。スコットも、慈善団体でのボランティアが使命だと思えたわけですが、そこに至までの予備知識はゼロ。ただ、それは誰しも同じではないでしょうか。

とはいえ、「情熱だけでは足りない」。これも私の意見です。もちろん、私は情熱が大好きですし、自分を突き動かすものを知ることは大事だと思いますが、情熱は出発点にすぎません。

私が提唱しているのは、「情熱とスキルと市場が重なり合うところ」。あたなにとってのスウィート・スポットを見つけることの必要性です。なぜなら、私がいま振り返り、キャリアを築く上でもっと早くに知っておきたかったことは、「仕事だとは思わずに取り組める役割を、社会のなかに見つけること」の大切さだったからです。情熱とスキルと市場が重なる場所を見極められたとき、その役割は見つかります。

それは、やりがいがあるというだけではなく、情熱を傾け、人生を豊かにしてくれます。ぴったりとはまる役割を見つけるのは、簡単ではありません。ある程度時間がかかるでしょう。あなたは、実験を繰り返し、多くの選択肢を試し、常識を検証し、正しくないと思えば突っぱねることが必要です。

最後に一言。これまでも言い続けてきましたが、行く先が見えなくても心配しないでください。目を細めても視界がはっきりするわけではありません。最終目的地に急がないでください。なぜなら、寄り道や思いがけない回り道に、とびきり面白い人や場所、チャンスに巡り合えるのですから。

わたしの助言もそうですが、あれこれアドバイスされても、うんざりしないでください。あなたにとって何が正しいかは、あなた自身が見極めるのですから。

ティナ・シーリグ◎スタンフォード大学工学部教授およびスタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)のエグゼクティブ・デ ィレクター。著書『20歳のときに知っておきたかったこと』『未来を発明するためにいまできること』など。近著『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』。


【特集】武器はミッション、舞台は地球! 世界で闘う「日本の女性」55

インタビュー=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事