タクシー料金改定申請を「ウーバー」から考える

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ウーバー登場などで産業構造の変革が進むタクシー業界。東京での運賃改定申請について「需給一致の仕組み」から考える。

主要タクシー会社は、東京でのタクシー料金の改定を提案している。改定の主要な部分は「初乗り料金を現行“2kmまで730円”から“1.059kmまで410円”へ」である。その後の距離比例部分は、現行280mごとに90円加算から237mごとに80円加算になる。新料金体系は、現行よりも2kmまでは値下げになることは明らかだが、その後の距離部分については、少し複雑だ。そこで、距離に応じた料金を、図1(写真)のような新旧料金比較グラフにしてみた。現行の料金体系が赤色点線、申請されている新料金体系を赤色実線で示している。

2km以下のタクシー利用について「もう少し料金が安ければ乗るのだが」という潜在顧客が大勢いて、一方タクシー会社のほうも「空車で流す車が多く、近距離客を乗せるようになっても、中長距離客を逃すことはない」と考えたに違いない。近距離部分について固定価格によりタクシーの「超過供給」が起きているからだ。

以前と比べて、1.(料金さえ安ければ)近距離の潜在顧客数が増加、2. 中長距離の顧客数が減少、3. タクシーの台数の供給が増加している。この3つの要因のいくつかが同時に起きているとすると、このような改定は理にかなっている。タクシー供給台数については、かつては認可制だったものが、届出制になったことで台数が増えた、と考えている人も多い。図2では東京のタクシー・ハイヤー供給台数の変化を示している。2008年にかけて、供給台数は増えたが、その後大きく減っている。

ニューヨークとの比較から見る

では、ニューヨークはどうだろうか。ニューヨークは、単純な距離比例の運賃体系だ。初乗り料金が3ドル30セント(2ドル50セント+80セントの都心加算)だが、そこから5分の1マイル(おおよそ320m)ごとに50セントの距離比例加算となる。ただ、アメリカには、チップという面倒くさい制度がある。おおよそ15%〜20%を加算して、セントは切り上げか切り下げをしてしまう。料金が10ドル30セントなら12ドルという具合だ。

ここでは、チップ加算(20%)した場合を考えてみよう。おおよその日米比較を図1で試みる。1ドル100円の場合(黒色点線)と1ドル120円の場合(黒色実線)について、図1において日米比較ができるようにしてみた。

近距離は、東京の新料金体系は、ニューヨークと遜色ないところまで下がっている。しかし、3kmを超えてからは、東京がニューヨーク(1ドル100円の場合)より高くなっている。図では示していないが、10km近くまで延ばすと、東京新料金体系が現行よりも若干高くなり、ニューヨーク(1ドル100円でも120円でも)よりもかなり高くなる。

東京もニューヨークも渋滞に巻き込まれた場合や信号待ち時間には、一定時間ごとの料金の加算がある。東京の場合は、時速10km以下の走行では、1分45秒ごとに90円加算。ニューヨークの場合にも「slow traffic(定義されていない)」では、1分ごとに50セントの加算がある。

深夜早朝料金の設定も異なる。東京では、午後10時から午前5時まで2割加算だが、ニューヨークでは、午後8時から午前6時まで50セントの加算があるにすぎない。深夜料金は東京のほうが痛い。

平日のラッシュアワーの加算はニューヨークにはあって、東京にはない。午後4時から午後8時の混雑時間帯に1ドルの加算がある。深夜加算よりも高い。これは需要の高まりを反映している。
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文 = 伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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