なぜ成功した起業家は宇宙を目指すのか?

COURTESY OF BLUE ORIGIN

かつて宇宙開発は、政府が国の威信を懸ける国家の一大プロジェクトだった。だが富豪起業家の相次ぐ参入により、新たな局面を迎えようとしている。技術でも発想の面でも格段の進歩を遂げた宇宙競争から目を離してはいけない。

人類の宇宙史に、新たな一歩が刻まれた瞬間だった。今年の1月、米宇宙開発企業「ブルーオリジン」が、自社開発のロケット「ニュー・シェパード」を準軌道飛行させたのち、垂直に着陸させることに成功したのだ。同社は、昨年の11月にも低高度ながら、ロケットを打ち上げて無事に着陸させている。だが、今度はより高高度での成功ということもあり、大きな注目を集めた。

ブルーオリジンは、オンライン小売大手「アマゾン・ドットコム」のジェフ・ベゾスCEOが2000年に創業した。創業15年目の快挙とあって、さすがのベゾスも「なかなかお目にかかれないこと」と誇らしげにツイートせずにはいられなかった。すると、これにもう一人の富豪起業家が、「おめでとう。でも、準軌道と軌道では高度が違う」と、快挙を讃えながらもライバル心を覗かせた。テスラモーターズのCEOで、宇宙開発企業「スペースX」を創業したイーロン・マスクである。

じつは、スペースXも昨年末に自社ロケットの「ファルコン9」を使って11機の衛星を打ち上げた後、地上に着陸させている(編集部註:ファルコン9は4月8日、大西洋の無人船への洋上着陸にも成功した)。

地球を離れたロケットが宇宙を周遊し、再び地上に着地する-。SF映画などでこうしたシーンを見たことがあるはずだ。これが現実になろうとしている。

近年、冒頭のブルーオリジンやスペースXをはじめとした民間の宇宙開発企業がロケット開発を加速させている。打ち上げはもちろんのこと、着陸も成功させることで、「リサイクル可能な宇宙開発」が本格化しつつあるのだ。

1980年代までは、ロケットを打ち上げても、宇宙飛行士は小さなカプセルに乗って地球に戻ってくることがほとんどだった。その後、NASA(米航空宇宙局)のスペースシャトルの登場で宇宙船の再使用が可能となったものの、耐熱タイルの検査など整備にかかる負荷が大きすぎたため、実質的にはコスト削減につながることはなかった。

だからこそ、次代の宇宙開発競争のカギは「リサイクル」である。各社は、打ち上げロケットや宇宙船、機材を再使用することにより、大幅なコスト削減を図ろうとしているのだ。
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翻訳=フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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