ビジネス

2016.05.30

茶道や陶芸、海外富裕層に「体験」を提供するインバウンドビジネス

TOKIは、外国人の富裕層旅行客を対象に、日本文化の神髄に触れることができる体験を提供している。アメリカの有名ブランドのエグゼクティブが来日した際には、刀鍛冶職人の工房を訪れた。

土地やモノではなく、その地域にしかない「体験」を味わうサービスを始めたベンチャー企業が、2014年創業の「TOKI」だ。

外国人の富裕層旅行客を対象に、「本格茶寮での茶道体験」「ミシュラン店での懐石料理づくり」「親子3、4世代の職人に学ぶ江戸切子づくり」「魯山人の窯で行う陶芸づくり」「日本刀の刀鍛冶の工房見学」など、日本文化の神髄に触れることができる体験を提供している。

サービス開始からまだ1年半ほどだが、海外の旅行代理店や富裕層のコンシェルジュ専業の会社の間でTOKIの認知は高まっており、個人旅行の顧客基盤を拡大している。法人のニーズにおいても、グーグル、ナイキ、マッキンゼーなど外資系トップ企業が研修旅行等に利用してきた。

同社代表取締役の三鬼紘太郎は、慶応義塾大学のスキー部出身。米国留学を経験し、三菱商事でコーヒー等のトレーディングに従事した後、大学同窓生の稲増佑子とともに事業を立ち上げた。

海外遠征、出張などの経験から、外国人富裕層はマスを対象としたパッケージの旅行には満足しておらず、「一流の日本文化を見てみたい」というニーズが確実にあることを感じていた。共同創業者の稲増は幼少期を米国で過ごし、大学卒業後は複数の外資系コンサルティング会社に勤務。その経験のなかで日本のデザインや文化の価値を再認識し、インバウンド事業を立ち上げることを決意した。

「海外の人が求める日本といえば、近年ではサブカルチャーの発信が良く取り上げられていますが、富裕層の人々は伝統文化やアートに高い関心を持っていると感じます。当社が提供する体験のなかでも、とくにお客様の評価が高いのが、日本の一流のアートや伝統工芸に接することができる体験プランです」(稲増)

なかでも「アートの島」として世界にも知られる瀬戸内海の直島を、現代美術に造詣の深いキュレーターとともにリムジンバスで回るプランと、京都の伝統工芸の一流の職人の技を見たあと、山の上で日本の食材を使った料理人によるパーティを行ったプランが好評価を得たという。

TOKIがこれから力を入れようと考えているのが、北海道と金沢だ。

「北海道の自然の豊かさと景色の雄大さは世界でも屈指の観光資源です。また金沢には加賀藩が残した伝統工芸文化があります。後継者不足に悩む人も多い伝統工芸の世界ですが、我々が外国のお客様をアテンドすることで、職人の方々にも大きな喜びを感じていただけることがやりがいとなっています」と三鬼は語る。

異国で暮らす人と会って、そこでしか味わえない体験をするのが旅行の醍醐味だ。現在の日本でインバウンド・ビジネスといえばアジアからの観光客の「爆買い」市場を狙ったものばかりだが、かつてバブルの時代に日本人観光客がパリやロンドンでブランド品を買い漁ったことを考えれば、いずれ彼らも「買い物から体験」へと旅行の目的をシフトさせることは間違いない。三つの事例で見たように、日本の地方には沢山の活用されていない「遊休資産」が眠っている。それらを掘り起こし、磨き上げ、国内外にアピールしていくことが、今後の日本活性化のカギとなるだろう。



TOKI

総合商社にてトレーディングに従事した三鬼紘太郎、外資系コンサルティング会社にて日本のメーカーの海外展開等のプロジェクトに参画した稲増佑子の2人により2014年に共同創業。


遊休アセット活用モデル
スペース、時間、文化的価値。都市圏だけではなく、海外から見てユニークかつ、魅力的な地方の遊休資産を、ITやネットワークを使って可視化、及び商品化することにより、ほぼ0の原資から、新たなビジネス価値を生むモデル。



大越 裕 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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