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2016.05.23

三重県にイノベーションを! 伊勢志摩サミットまでの激動の300日

鈴木英敬 三重県知事(写真=吉澤健太)

5月26日~27日。伊勢志摩でサミットが開催される。三重を世界に知らしめるチャンスである。世界の首脳が勢揃いする大舞台、何よりも「安全」は確保しなければならない。1年弱というきわめて短い準備期間で県民一丸の迎え入れ体制を築いたトップの「300日間の激闘」。

2015年1月5日、毎年恒例の首相の伊勢神宮参拝。その日、三重県知事の鈴木英敬は大きな決意を胸に、伊勢神宮を参拝する安倍晋三首相を迎えていた。16年に日本で開かれる主要国首脳会議(サミット)の開催地に立候補する意志を首相に伝えるつもりだったのだ。

仙台、広島、名古屋……すでに多くの都市が開催地として名乗りを上げており、激しい誘致合戦が繰り広げられている。立候補表明は最後発となるが、鈴木はチャンスがあると踏んでいた。

伊勢神宮を中心とする神道には「あらゆるものに神は宿っている」という考え方があります。他の宗教を排除するのではなく、さまざまな価値観を受け入れる精神性がある。世界の平和を達成するためにも、そんな“寛容性”を発信する場所としての伊勢をアピールしたかったのです。安倍首相には、そんなメッセージとともに立候補の意志を伝えました。

対外的にサミット誘致への立候補を表明したのが1月21日。その日から半年間の懸命の招致活動が実り、ドイツ・エルマウ城で開かれるサミット直前の6月5日に安倍首相から「サミットは伊勢志摩で開催すると決定した」と発表がありました。

しかし、ここからが大変でした。16年5月26日の開催日まで1年弱。過去の例を見ても、洞爺湖でのサミット開催が決まったのが前年の4月23日で、開催の7月7日までには1年以上の期間がありました。それよりはるかに短い期間、300日余りで準備しなければなりませんでした。

過去のサミットを見ると、01年のイタリア・ジェノバサミットではサミット開催に反対するデモ隊と警官隊が衝突し、死者が出ました。05年の英国グレンイーグルス・サミットではロンドン地下鉄テロが多発的に起こり、50人以上が亡くなりました。要人が集まるサミットはテロの標的になりやすいうえ、IS(イスラム国)の活動も過激になってきていましたので、何をおいても「サミットを安全に行う」ことが最重要課題でした。

そしてもうひとつがサミット開催を機に、伊勢志摩、そして三重県の知名度を上げなければなりません。短い期間で、これらの課題と取り組むためには県民が一丸になる必要がありました。

安全・安心なサミット開催のためには、治安当局はもちろん、官民一丸の「オール三重」での取り組みが必須です。警察、自衛隊、海上保安庁は万全の体制を目指し、200回を超える連携訓練を繰り返してきました。とはいえ、どんなに訓練を繰り返してもテロを100%防止することはできません。特にソフトターゲットが狙われる傾向がある昨今のテロに対しては「完璧な防止策」は困難です。

テロを未然に防ぐために重要なのは「情報」です。「普段見かけない不審車が止まっている」「空き地に突然ドラム缶が置かれた」などという地域の小さな異常を一番知っているのは地域住民だということで、あらゆる情報が集まってくる体制をつくりました。官民41団体で組織する「テロ対策三重パートナーシップ推進会議」です。

例えば、建設業者とは建設現場の施錠を確実に行うように申し合わせたり、倉庫業者とは倉庫の巡回の頻度を高めたりなど、それぞれの団体や住民を巻き込んでテロを未然に防ぐ工夫を重ねてきました。

要人を安全に迎えるための社会資本の整備も、この短い期間に全力で取り組んでいます。例えば、道路の周囲に雑草が生えている状態では、そこにテロリストが潜む可能性が生まれます。そこで、視認性を高めるために伐木を行い、監視カメラも多数設置しました。また、河川に爆発物を設置させないため、河床の掘削を行っていますし、四日市地区の石油化学コンビナートが狙われたら大変だということで、ずっと重点立ち入り調査を続けてきました。

さらに食品衛生にも気を使い、水道に異物が混ぜられないように安全管理を徹底しました。サイバーテロへの対策も必要です。実は、数字は明らかにできませんが、三重県庁に対する標的型メールの数はサミット開催が決定して以来激増しているのです。

テロだけではなく、自然災害対策も必要です。県として熊野灘沖に設置されている地震・津波観測監視システム(DONET)を活用し、波の揺れを感知して外国人観光客や地域住民に英語と日本語でメールを送るシステムの運用を実施しています。

全県一丸で盛り上げる工夫

いよいよ26日から開催される伊勢志摩サミットで、どのような成果を出すことができるのか。鈴木は「サミット成功」の定義を3つ挙げた。1. 安全なサミットの実現、2. 全県展開の実現、3. 次世代にレガシーを残す。この3つの条件が実現できれば、サミットをきっかけにして三重県はイノベーションを起こすことができるはずだと信じて、全力を傾けてきた−−。

写真で追う鈴木英敬知事の300日間、県民をあげての取り組みは、5月25日(水)発売のForbes JAPAN 7月号で。
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すずき・えいけい◎1974年、三重県生まれ。東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業支援、特区や農商工連携といった地域活性化などを担当。第1次安倍政権時に官邸スタッフとなり、教育再生と地球温暖化を担当。2008年に退職し、第45回衆院選挙に三重2区から立候補するも落選。11年、三重県知事選に立候補し当選。当時の最年少知事となる。15年に再選を果たし、現在2期目。

鈴木裕也 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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