キャリア・教育

2016.05.18 10:00

「トランプ現象」が共和党に与える深刻な影響


トランプは、これらの恐怖や不満をうまくすくい上げている。とはいえ、「メキシコ人がアメリカに移民するのを防ぐために壁を造る」、あるいは「イスラム教徒のアメリカへの入国禁止」といった彼の主張は、先ほどの「共和党が支持基盤を広げるためには白人の男性以外に多様化する必要がある」という考えと正反対である。

共和党の幹部は、2月のニューハンプシャー州、サウスカロライナ州、ネバダ州の予備選や、3月1日の「スーパー・チューズデイ」でトランプが勝利を収めるまでは、彼を本命視していなかった。ところが今や、トランプが指名獲得に必要な1,237名の代議員のうち、すでに400名を超える代議員を獲得しており、共和党の指導者層は彼を止めようと必死である。先述したミット・ロムニーは3月3日にスピーチを行い、「トランプは見かけ倒しの“ペテン師”で、アメリカを誤った方向に導く」と批判した。08年の共和党の大統領候補であったジョン・マケインも同様の批判を行っている。

共和党には今後、5通りのシナリオが考えられる。1. トランプが予備選で勝ち続けて共和党の候補者になる、2. トランプの対立候補(テッド・クルーズ、マルコ・ルビオ、ジョン・ケーシック)のうちの1人が追いつき、代議員数でトランプを抜く、3. どの候補者も十分な代議員数を獲得できず、7月のオハイオ州クリーブランドでの共和党全国大会で調停により決定される、4. トランプが調停による決定で敗れ、第3党の候補者として立候補を決意する、5. トランプが必要な代議員数を獲得するものの、共和党主流派がこれに不満を覚え、共和党の伝統的理念をより忠実に体現する別の候補者を支持する、の5通りである。

一方の民主党は、ヒラリー・クリントンが7月のフィラデルフィアでの民主党大会を前にして、党の指名を受けるのに十分な代議員数を獲得する可能性が高い。したがって、一般選挙は「クリントンと共和党候補者」、または「クリントン、共和党候補者、第3党候補者」の間で争われることになるだろう。

いずれにせよ、「トランプ現象」が共和党の将来に深刻で永続的な影響を与えることは確実だ。

グレン・S・フクシマ◎米国先端政策研究所(CAP)の上席研究員。米国通商代表部の日本・中国担当代表補代理、エアバス・ジャパンの社長、在日米国商工会議所会頭等を経て現職。米日カウンシルや日米協会の理事を務めるなど、日米関係に精通する。

文 =グレン・S・フクシマ

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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