キャリア・教育

2016.05.01 10:00

フォーブス記者が見た「裸のドナルド・トランプ」


この「行動あるのみ」的な世界観が、彼にまつわる最大の謎を解くカギとなりそうだ。つまり、なぜ賢明で利発な人間が、無学で時には危険でさえある妄言(科学的に立証されてもいないワクチンと自閉症との因果関係や、オバマがケニア生まれかもしれないというデマ)を広めるのかという謎である。

シンプルな自説を自信ありげに何度も繰り返すことで、トランプは“事実”を作り出すのだ。実際、翌日、彼がある米テレビ番組に出演すると、司会者は何の注釈も付けずにトランプを「100億ドルの資産家」と紹介していた。

「王様」か、あるいは「裸の王様」か?

96年に再度ランクインして以来、トランプと「フォーブス400」との関係はより微妙なものになった。本誌は「信頼せよ、されど検証せよ」という方針で臨んでいる。トランプが我々に開示する情報は、リストに掲載された他の人たちのそれよりも多い。我々は基本的にはそれを受け入れている。しかし、所有権や債務、資産の明細などの証明がない限り、警戒を怠らない。

「君らは、私をできる限り貧乏に見せようとしているんだろう」と、トランプは言う。彼の選挙資料によれば、今年だけでその資産額は87億ドルから100億ドル以上に増加した。今回のインタビューの間にも、彼はその数字を「100億ドルを大きく超える金額」へとかさ上げし、「間もなく発売される別の権威ある雑誌には、115億ドルと書かれるはず」だと告げた。

「そうなれば、君らが悪者に見えるぞ。私に言えるのは2つだけ。『フォーブス』が破産した雑誌だということ。それと、何を書いているのか自分たちでもわかっていないということだ。それ以上は何も言わん。こっちが気恥ずかしくなるからね」。

私は、トランプにシンプルだが重要なある質問を投げかけた。フォーブスが彼の資産を評価する時、他の不動産王たちに対する時とは異なる方法を用いていると思うか?「もちろん、そう思っているよ」と、彼は答える。なぜ、本誌がそんなことを?「それは私が有名人で、他の連中は違うからだ。不動産王のリチャード・レフラックが『ディナーの予約を取るための口添えをしてくれ』と私に頼んでくるくらいだぞ」。

そう言いながらも、トランプは「フォーブス400」を気にかけている。テレビ出演を控えた晩にも、トランプは私に電話を寄越し、ある持ちビルの抵当権の現況を明らかにした。彼が税制改革案を発表した日も、「トランプ」ブランドの価値がいくらぐらいの範囲になるかを書きつけた手書きメモが、アシスタントの手でスキャンされ、電子メールで届いた。

インタビューの最後に、トランプから見出しの腹案はあるのかと聞かれた。私はないと答え、何かいい案はあるかと尋ねた。法王を見下ろすバルコニーを持つ、大統領の座を狙うポピュリストは、ほとんど間を置かずに言った。「『王様(ザ・キング)』だ」。

翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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