「私がシンガポールの教育を使って日本を外から揺さぶります!」ー田村耕太郎

国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院 兼任教授 田村耕太郎氏(写真:藤井さおり)

元参議院議員で、現在はシンガポール国立大学の教授を務める田村耕太郎氏。現職中から日本のグローバル化について熱心に取り組み、現在もシンガポールからグローバル社会について最新かつ刺激的な情報を発信し続けている。日本が世界のなかで存在感を発揮するためには何が必要か、田村氏に話を聞いた。
(インタビュアー:フォーブス ジャパン副編集長/WEB編集長 谷本有香)

谷本有香(以下、谷本):グローバル化が世界の潮流となっているいま、田村さんが書かれるものを読んでいると、日本はとても遅れをとっているという危機感を持たずにはいられません。日本はいま、世界の中でどのような位置付けなのでしょうか。
 
田村耕太郎(以下、田村):今年3月、アメリカのアリゾナにノーベル賞受賞した科学者や世界最大級の投資家、政治家、世界的ユニコーン起業家など、世界中から選ばれた150人が集まりました。そこに行って再認識させられたのですが、日本に対して本当に無関心になんです。そこは一般公開している世界経済フォーラムなどと違い、クローズドで世界最高の議論をする場所なので外交儀礼はありません。日本のテクノロジーを使って何かしたいとか、日本と一緒に仕事したい、という声が全く聞こえてこない。最初から相手にされていないんです。

たとえばAI(人工知能)を見てみても、日本では囲碁でAIが人間に勝ったことが大きな話題になっていますが、アメリカのAIは実はもっともっと先を行っています。日本ではアメリカやシンガポールでは社会インフラになっているウーバーさえもほとんど普及していません。やっと日本でも広まってきたフィンテックという言葉にしても日本にはないに等しいと言われています。私もそうだと思います。

谷本:なぜ日本はそこまで遅れてしまったのでしょうか。

田村:リーダーのレベルの違いですね。トップのレベルの高さ、層の厚さが比べ物になりません。日本のトップの多くは世界レベルでもまれていません。そもそも、日本の組織のトップで英語を話せる人があまりにも少なすぎます。だから世界の舞台で一次情報を入手したり、世界第一線の人材と自由に意見交換したりする機会がありません。

よく言われている話ですが、内需でまだ食っていけるので、そもそも組織やそのリーダーに、事業の規模やレベルを世界基準にスケールしようという意識が低いですよね。

その次が、多様性への慣れの欠如。アメリカや欧州やシンガポールにいると実に多様な文化的・宗教的背景を持った人で社会が出来上がっています。もちろん、国籍も多様で、国籍や文化的背景を超えて結婚して、そういう背景のもとに生まれた子供もたくさんいますから、社会の多様性は加速しています。

それに対して、日本はまだまだ排他的な社会です。もちろん、その排他性のおかげで治安や社会秩序が保たれているので恩恵もありますが、これからはその逆効果も出てくると思います。例えば、100%遺伝的に同じ日本人でも、組織や集団の秩序を乱すものはどんどん排除しようとする力が日本社会や組織にまだまだあります。そんなことでは、日本人とは全く違う背景で育った多様な外国人を、受け入れるなんて不可能です。

いまや赤ちゃんや幼児でさえ、うるさいから乗り物に乗せるなとか、近くに保育所を作るなという声が上がると聞きます。とても残念です。日本は、社会の秩序を保つことが最優先ですから。

それでは多様な意見がぶつかりあい、新しい考えが生まれてくるような可能性も広がらないですよね。アメリカのように多様性を受け入れられる社会に比べて、どんどん発想の豊かさや社会の柔軟性が遅れてしまうのも当然です。
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構成=吉田彩乃 編集=谷本有香 衣装協力(谷本)=HIROKO KOSHINO PREMIER

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