「代金は要りませんと言ったらマークは感動していました」と、フィルズの創業者で60歳のファイサル・フィリ・ジェイバー(Faisal “Phil” Jaber)は当時を振り返った。
ジェイバーが2002年、ミッション地区に開いた小さなコーヒー店は、サンフランシスコのコーヒー好きの憩いの場になった。フィルズにはいわゆる、“サードウェーブ”のコーヒー店にありがちな高慢なイメージが無い。今日もフィルズには、ビジネスマンや消防士、配管工たちが列をなし、看板商品のJacob’s Wonderbarやミントモヒートが出来上がるのを楽しみに待っている。
価格はスターバックスの約2倍
フィルズにはエスプレッソ系のメニューがなく、代わりに7年がかりで商品化されたカフェインが強めのミディアム・ローストTesoraなどが知られている。一流のコーヒーハウスのような特別な設備はなく、コーヒー豆は注文を受けてからひかれ、丁寧にドリップされる。
味わい深いコーヒーは、決して安くはなく、Sサイズのコーヒーの価格はスターバックスの同サイズの2倍近い。フィルズの常連たちは、その価値がコーヒーだけでなく、そこで過ごす時間や「グランマの家」と呼ばれるくだけた雰囲気にあるという。
マニュアル対応が目立つスターバックスや、流行に敏感な人が通うブルーボトルコーヒーに対し、フィルズは肩の凝らない雰囲気が売りだ。
バリスタはコーヒーを一杯ずついれ、客の好みに合わせてクリームとブラウンシュガーを加える。顧客との心の交流を重視するスタイルを、ジェイバーの息子でCEOのジェイコブ(29)は、「コーヒービジネスではなく、人とのビジネスだと捉えている」と語った。