フォーブス ジャパン3月号「究極のオフィス、新しい働き方」特集では、急成長するスタートアップの働き方を紹介するにあたり、スタートアップの採用・人事支援を行っているスローガンの伊藤豊社長から協力を得た。自身も起業家であり、10年にわたり多くのスタートアップを見てきた彼の主張は「本当に強い企業は組織戦略が優れている」。
メディア露出の多さや資金調達額の大きい企業が注目されがちだが、むしろ組織拡大の中でも従業員の定着率が高い企業、新卒採用をはじめとして優れた人材を獲得できる組織戦略を持つ企業こそ強いという。そのために重要なことは何か。彼の答えは「企業のミッションを組織として共有する」。言葉としては「当たり前のこと」が企業としてできているか、だという。
ー急成長するスタートアップの共通項は何なのでしょうか。
伊藤:三者三様のように見えますが、それは“独自の組織文化”が社内制度に色濃く出ているからです。その背景には、企業のミッションがしっかりと組織に定着し、社員一人ひとりの行動に浸透しているという共通項があります。
奇をてらったように見えるかもしれない制度も、論理的に試行錯誤しながら形成した結果。そういう意味では、失敗も経ているので時間がかかる。一朝一夕ではできません。「他の企業がやっているから」といって右へ倣えではなく、どうすればミッションを実現できるかを、正攻法で考えていったからこそだと思います。そういう信念のある経営者がコツコツとつくっていく組織こそ成功につながると思いますね。
例えば、経営会議の議事録を共有するのは、最初面倒だったと思います。記録に残して開示して、これまで出なかったような意見が提出され、考えなければならないわけです。多くの企業が「面倒だからやめよう」という中で、やり続けた。そこには組織をどうしたいのかという“組織観”が強いから続けられたのだと思います。そして、やり切ったからこそ、独自の組織文化ができるわけです。
ー組織観を持ち続けることが大事なことだと。
伊藤:「どういう組織であるべきか」「どういう組織にしたいか」というのは、組織戦略、人材採用に真面目に向き合っていくためには必要なことです。
例えば、新卒採用をする場合、将来有望な若者の未来を預かるわけですから、ビジョンがないと無責任です。そしてビジョンがなければ、個々人のパフォーマンスをどう最大化するのかということを追求できないと思います。
例外もありますが、新卒採用をしているスタートアップが成長する傾向があるのは、組織の未来をしっかり描いているからだと思います。
ー組織文化を定着させるためには何をすべきなのですか。
伊藤:会社のミッション、ビジョンを明確にする必要があります。これらが弱くあいまいな企業は組織文化をつくれません。
ミッションやビジョンはすべての企業が掲げています。しかし、それが共有されているか、浸透しているかは企業によって違います。従業員が「なんかあったよね」という会社もあれば、当たり前に“そら”で言え「結構気に入っています」という会社もある。
自分視点ではなく、 世の中をこうしたいという社会視点のミッションがある企業は強い。グーグルは「世界中の情報を整理して、世界中の人がアクセスできるようにする」、SMSも「高齢社会の情報インフラになる」というミッションがあります。
最後に、経営陣の意思決定プロセスの情報共有も大事だと思います。経営陣がビジョン、ミッションに基づいて意思決定をしていることがわかることが何よりも組織文化の定着につながると思います。ただ、これをしっかりやっている企業は少ない。そう考えると、ありきたりかもしれませんが、真面目に、誠実な経営をしていくこと。それが組織文化の定着、浸透に最適なことかもしれません。
いとう・ゆたか◎1977年生まれ。2000年に日本IBMに入社。05年末にスローガンを設立。「人の可能性を引き出し、才能を最適に配置することで、新産業を創出し続ける」をミッションに、新興成長企業への成長支援を人材を軸に実施。14年より投資事業を立ち上げ起業支援も行う。