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2016.02.14

中国経済の頭脳が明かす「景気減速」の本音

(左)川村雄介 (右)李揚

川村雄介が中国社会科学学院前院長・揚を独占直撃!中国経済の頭脳が明かす「本当の中国」

日本では「中国の終焉」というようなことがしばしば語られるが、実際はどうなのだろう。フォーブス ジャパン好評のコラム「川村雄介の飛耳長目」の大和総研副理事長、川村雄介氏が北京に飛び、中国の経済政策の頭脳的役割を担う中国社会科学院前副院長、李揚氏に聞いた。

川村副理事長(以下、川村):中国の経済成長率は現在、7%を切っており、中国経済の先行きはかなり厳しいという見方が日本では大勢を占めています。その点についてどうお考えでしょうか。

李揚前副院長(以下、):結論を言うと、心配は無用です。中国は30年にわたり10%台、2桁の成長を遂げてきましたが、そういう成長はバランスや調和、持続性に欠けます。現在の減速はこれまでの成長モデルの修正であり、中国政府としては織り込み済みなのです。

まず、今年のGDP成長率は7%といわれています。私たち研究者も政府も、第13次五カ年計画(2016〜20年)の間は約6.5%の成長率をキープできると考えています。これは、20年までにGDPを10年の倍以上まで成長させるということ。目標の達成は容易ではありませんが、実現可能だと考えています。

次の第14次五カ年計画(21〜25年)中、経済成長はさらに減速し、6.5%を割り込む予想ですが、それも政府の想定内で、コントロールは可能です。

中国経済は現在も発展路線にあると言えますが、過去30年、ハイスピードな成長の中で、政府も社会もGDPを重視しすぎました。高度経済成長には大気汚染をはじめ環境問題など負の側面がありますし、経済は量的には成長しても質が低く効率は悪いままでした。

ここ2年、GDP成長率は鈍化していますが、排ガスやCO2などの排出に関するデータはいずれも改善しています。単位GDP当たりの水の使用量、エネルギーの消費量も大きく減少。また、かつてはメイド・イン・チャイナといえば「安かろう、悪かろう」でしたが、この2年のクオリティの向上には目覚ましいものがあります。

もう一点。中国では数十年にわたる経済成長で国家財政が豊かになったものの、国民はその恩恵を十分に享受していませんでした。ところが12年以降、都市部世帯の収入の増加率はGDP成長率を超え、農村部世帯の収入の増加率は都市部世帯のそれをさらに超えています。

成長のプロセスでは、地方の産業や企業の停滞、失業率の上昇など、「改革の陣痛」ともいえるさまざまな問題が生じます。解決には何が重要なのでしょう。

第一に、マクロ経済の安定を維持する、つまり経済成長の減速をより緩やかにすること。第二に、ミクロ経済を活性化し、例えばイノベーションを企業や市場の新たな原動力とすること。第三は、社会、民間の力によるセキュリティネットワークを構築すること。この三つが揃えば、中国経済の転換はうまくいくでしょう。

とくにセキュリティネットワークについては、以前は地方政府ごとだった就労者の年金管理が全国規模での実施に向かっており、公的医療保険についても改革が進められています。

じつは中国の年金基金は、現状が続けば29年以降マイナスとなってしまう恐れがあります。解決には国有企業や中央企業の利益から国家がより多く徴収する、国有資産を売却して年金に活用する、労働者の退職年齢を引き上げていくという方法があります。

川村:国有資産を年金に活用するというと、具体的にどういうことでしょう。

:簡単に言うと、年金資金が足りなくなったら国有資産を売却して補うということです。中国の財政には四つの予算があります。通常予算、ファンド予算、国有資産、年金予算で、現在一体化を進めています。完了すれば、国有資産の売却によって年金の不足を補うことが可能になります。

中国政府は朱鎔基元首相の時代に年金の資金不足解消のため、大部分を政府が拠出した社会保障基金をつくりました。政府の拠出金は現在1兆元以上に達しており、近年は年金資金補填のため、国有企業からの税収の投入額が増え続けています。13年11月の中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)では、国有企業からの税収で足りない場合、国有資産売却によって補足するとの方針が打ち出されました。

つまり中国政府は、国民の生活の問題を最優先課題に位置付けているのです。
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編集 = 藤吉雅春、森裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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川村雄介の飛耳長目

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