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2016.02.06

世界に取り残される日本の「英語力」 [グレン・S・フクシマの知彼知己]

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アジア30カ国の中で、日本の順位が下から4番目の国際テストをご存じだろうか? それは、英語の能力測定に最も広く使われている「TOEFL(外国語としての英語能力検定試験)」である。

同試験を実施しているETSによると、2014年1月〜12月の間に行った国のうち、アジアでは、シンガポールが98点でトップ。次いでインドが91点、パキスタンが90点であった。アジアの最下位は、ラオスの64点、その上が69点のカンボジアとアフガニスタン。70点の日本は、下から4番目である。ちなみに、文化的に「中華思想」と批判されることもある中国は 77点、言語が日本語に近いといわれている韓国は84点であった。

では、テストを実施した170カ国の中で、日本の得点が最下位の国際テストは何だろうか。TOEFLの話す能力テストである。17点という日本の得点は、コートジボワール、トーゴ、サウジアラビアと並んで170カ国で最も低い。アジアで最高の24点だったのは、シンガポール、パキスタン、フィリピンであった。ちなみに中国は19点、韓国は20点である。

日本では、英語は義務教育の一部であり、英語教育にかけている時間やお金、取り組みを考えると、この結果は残念だ。もっと残念なのは、日本ではこのテスト結果改善の方策について長年議論しているにもかかわらず、改善できていないことである。

日本人の中には「日本の英語能力が低くても問題はない」と言う人もいる。人間や機械による翻訳で言語の壁は乗り越えられる、あるいは外国人に日本語を教えれば問題は解決すると考える人もいる。

TOEFLの結果について日本は伝統的に、英語は海外から知識を得るための道具だったので、今後も同様に日本は英語から日本語に文書を翻訳するための読解力に力を入れるべきだと説明する人もいる。

こうした人々は英語を、考え方、情報、メッセージを外国人に直接伝える手段としてや、日本語を話さない人との直接的な議論、討論、人間関係構築のための意思疎通の方法としては、さほど重要だとは思っていないようである。

しかし、こうした考え方は英語の「公共財」としての重要性を過小評価している。英語は、政府やビジネス、法律、マスメディア、教育のどの分野でも、グローバル・コミュニケーションと人的ネットワークづくりの共通のプラットフォームとして使われている。このままでは、英語に堪能な人材が幹部に少ないために、日本は自らの存在感を低下させ、世界から孤立することになる。また日本の組織が、日本人の英語力不足ゆえに、貢献できるはずの優秀な外国人の実力を引き出せずにいる場合も少なくない。

これまでは、単に英語でコミュニケーションがとれれば十分であった。しかし、過去20年の間にネイティブではない話し手の英語力が急速に向上したため、英語を高度なレベルで話したり書いたりする力がますます期待され、求められるようになっている。この高度なレベルの英語力には、その基礎となる明確かつ理路整然として説得力のあるプレゼンテーションや文章を作成できるような論理的思考、分析力、批判的思考が育成されていることが前提となる。

こうした基礎的能力は、日本を海外に説明するためだけではなく、外国人を説得し、交渉するためにも不可欠である。さらに、世界の選りすぐりの人材が、日本へ留学や大学での研究のために来日したい、あるいは日本で働いてみたいと思ってもらうためにも、日本人の英語を聞く力と話す力を世界的に遜色のないレベルに引き上げる必要がある。

それには、日本の英語教育の理念とともに、カリキュラムや教材、教育方法、教員のレベルを改善する必要がある。教員の多くがいままで長い間力を入れてきたのは、事実と情報を得るための受動的な英語の読解力育成であり、いま求められているコミュニケーションに必要な能動的に考える力、聞く力、書く力、話す力ではなかったからだ。

世界で求められているレベルの英語力達成には、日本の英語教育制度の抜本的改革が急務である。


GLEN S.FUKUSHIMA グレン・S・フクシマ◎米国先端政策研究所(CAP)の上席研究員。米国通商代表部の日本・中国担当代表補代理、エアバス・ジャパンの社長、在日米国商工会議所会頭等を経て現職。米日カウンシルや日米協会の理事を務めるなど、日米関係に精通する。


編集 = Forbes JAPAN 編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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