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2016.02.01

Forbes JAPAN編集長が読み解く2016年 世界経済の10大ポイント

photograph by Junji Hirose

2016年の10大注目ポイント
キーワードは「先進国回帰と格差拡大」だ

2015年はイスラム過激派によるテロが相次ぎ、地政学リスクの高まりを実感した1年だった。
世界経済に目を向けると地域格差が拡がり、さらなる摩擦を招いている。
2016年、世界はどこへ向かうのか。賢人たちを訪ねた。

1年前の2014年11月に行った世界5大賢者エコノミストたちのインタビューは経済構造を考える際のフレームワークを私たちに示してくれた。あれから1年、世界中で予想もしないような出来事が多発した。

世界5大賢者エコノミストたちが1年間の出来事を経て、どのように現在の経済事象を新たな視点でフレームワークに落とし込むのかを定点観測することには大きな意味がある。

モハメド・エラリアン氏が14年に示した「ニュー・ノーマル(世界経済の低成長、金融緩和、規制強化で特徴づけられる経済)」は、いうなれば新興国の高成長によりかろうじて支えられた世界経済の低空飛行状態といえる。1年経ってその状況は「T字路(上か下かどちらかに振れる状態)」により一歩近づいているとみる。14年、彼は世界経済を脅かす3つのリスクとして1. 政策面での失敗、2. 地政学リスク、3. 非国家主体の存在、を挙げていたが、これらは8月における中国政府の市場への介入、原油安によるロシア政府の過激化、イスラム国による各地テロ行為としてまさにこの1年で現実化した。その結果としてT字路の分岐点に差し掛かっているとエラリアン氏は警告する。

ロバート・ゼーリック氏が16年で最も懸念するリスクは中東である。イスラム国が絡む様々な危機とそれとは別に中東国家システムが大きく変革する中で引き起こされるイラクやシリアの分断、スンニ派、シーア派、アラウィー派などの争いや、その嵐に引き込まれるトルコとその争いに絡むロシア。

ウィレム・バウター氏へのインタビューの中心はヨーロッパ経済である。投資水準は依然低調なものの、ECBの積極的な金融緩和により低成長ながらもヨーロッパの経済は比較的堅調に推移すると予想する。しかし押し寄せる大量の移民や難民にどう対応するかが今後の欧州連合の命運を左右するという。

今回行ったエコノミストへのインタビューと私見を交え、16年の10大注目ポイントを次のように整理した。

1)10年ぶりに分岐点を迎える金融政策
米国金利引き上げにより日米欧の金融政策はリーマンショック以降はじめてダイバージェンス(Divergence)、つまり分岐を迎え、これが新たな変動要因となる。

2)一層高まる市場ボラティリティ
低潜在成長率下で市場プレミアムが縮小する中、国別、業種間、資産間の収益性格差が一層拡大しデリバティブを通じた金融取引はますます活発になる。VIX(恐怖指数)は再び40を超える可能性もあろう。

3)比較的安定する為替動向だが……
金融政策のダイバージェンスによりドル高、ユーロ安、資源国・新興国通貨安圧力がかかる。円についてはエラリアン氏の「T字路」的な状況を想定すればドル高圧力がかかる中でも大きく振れるとすればむしろ円高である。

4)原油は世界経済最大のキーファクター
OPECの減産見送りにより1バレル20ドルを切るとの予測もある。そうなれば恩恵を受ける国と損失を被る国の格差が拡大するだけではなく、資源国経済に壊滅的な打撃を与え、一層地政学リスクを増長する。

5)中国の課題は経済回復よりむしろ信用回復
ゼーリック氏は、中国指導部は何をすればいいのか十分承知しており行動力もあるとみる。問題は世界がそれを信用していないことだ。

6)最大の脅威となる中東問題
イスラム国包囲網が強化される中、どこまで思惑の異なる国が一枚岩になれるかがポイント。シリアがその鍵となる。

7)スローダウンだがメルトダウンとはならない新興国経済
16年、新興国への資金の流出入は1988年以来初めての資金流出超となった。原油価格が一層低下すれば新興国経済は一層悪化する。とりわけ、ロシア、ブラジル、ベネズエラ、アルゼンチン、トルコなどは苦しい1年となろう。

8)参議院選挙は衆参同時選へ
安倍晋三総理が20年までの長期政権を目指すうえで夏は衆参同選挙となる公算が強い。一方で世界経済の停滞が予想され、選挙の争点は経済問題に。財政出動、消費税引き上げ見直しなども視野に入る。

9)サラブレッドが圧勝する米国大統領選
よほどのスキャンダルでもない限り米国史上初の女性大統領を目指すヒラリー・クリントン氏が当選するのは間違いない。相性の良いヒラリー氏が当選すれば安倍内閣にとってはるかに外交がやりやすくなる。まさかトランプはないと思うが。

10)サイバー攻撃はリスク要因のワイルドカード
より悪意があるのはDoS攻撃型といわれるサーバーであり企業や国家のもつ資産の破壊を行う。また国家レベルでのサイバーテロもIoT化が進み深刻な問題となる可能性が高い。

以上を踏まえた16年のキーワードは「先進国回帰と格差拡大」である。

高野 真(本誌編集長) = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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