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2016.01.25

腸内細菌に注目 米病院で肥満解消のための仰天実験

Graphicworld / Shutterstock

痩せたい人に朗報となるか。このたび、マサチューセッツ総合病院(MGH)がユニークな臨床実験を行うことで話題を呼んでいる。その内容はというと、太っている人に、痩せている人の糞便をフリーズドライにしたカプセルを摂取してもらい、肥満解消に効果があるか調べるというのだ。

この臨床実験は、腸内細菌が人々の体重や健康、肥満に何らかの影響を与える可能性が高いという理論に基づいて行われる。研究の前提になっているのは、痩せ型と肥満型では異なるタイプの腸内細菌をもっているという見方だ。よって、痩せ型の人の腸内にひそむバクテリアをフリーズドライにし、それを太った人に摂取してもらうことで、肥満解消の効果を調べるというのが実験の趣旨である。

果たして、人の排出物が肥満予防や治療に役に立つのだろうか。過去の研究から、腸内細菌の変化が肥満につながった例は確認されている。また、肥満型の人は、腸内のバクテリアの種類が痩せている人より少ないということも明らかになっている。なかでも、高脂肪、低繊維、精製炭水化物に偏った食事や抗生物質の過剰摂取は、多様な腸内バクテリアを消滅させ、結果的に肥満につながると指摘されている。さらに、マウスを使用した実験では、糞便の移植による体重減少が証明された。

とはいえ、このサプリだけが肥満の解決策になるわけではない。本気で痩せたいなら、瘦せ型の腸内細菌を取り入れたらそれで終わりというわけではなく、その細菌のある腸を保つために、自分の食生活や生活環境、薬の摂取など様々な要因を見直すことが必要不可欠になる。

人の糞便を利用した腸内細菌の移植は全く新しい試みというわけではなく、クロストリジウム・ディフィシル(C. difficile)の腸内感染を治療する目的でこれまでにも利用されてきた。C. difficileは世界のいたるところで院内感染菌として下痢や腹痛、結腸に異常をもたらすほか、最悪の場合死に至る。抗菌物質の投与を続けることによって正常細菌が乱れると、結果的にC. difficileの異常繁殖につながることも分かっているため、万一それらが効かない場合には糞便による腸内細菌移植の出番となる。ただし、まだ研究途上であるため、C. difficile以外のケースで腸内細菌移植を行う医師や医療機関があれば、少し注意が必要だ。

これまで、通常、腸内細菌の移植は内視鏡手術で行われてきた。まず腸内を洗浄し、その後直腸にチューブを差し込むというものだ。しかし、今回のMGHの臨床実験はその従来のやり方を大きく変えるものになる。というのも、フリーズドライの糞便(カプセル)を口から摂取するという方法だ。内視鏡手術をするよりは、ちょっと試してみようと思うかもしれない。

ただ、安全性について不安に感じる人もいるだろう。他人の体内にあったものを自分の身体に摂取するとなると、HIVや肝炎など何らかのウイルスに感染したりしないか心配するのはもっともだ。病気やアレルギーなどが移ることを懸念する人もいるだろう。しかし、これまでのところ、腸内細菌の移植による重大な合併症などは報告されていない。実績のある医療機関や移植ドナーの仲介業者は、ドナーの病原菌やその他のリスク要因について定期的にスクリーニングを行っているからだ。もし移植を受ける際には、そうした手順を踏んでいるかしっかりと確認することが大切になる。

現時点で確かなのは、腸内細菌の移植がC. difficileの治療に活用されているということと、肥満治療への効果については検証中ということだ。だからといって、実験結果に期待し、高をくくって暴飲暴食に走らないようご注意を。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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