米IBM IoT開発拠点をドイツに開設した狙い

Mark Wilson / gettyimages

米国のIT産業大手がインターネット上を行き交う膨大なデータの処理技術を競う中で、米IBMが新たにドイツに開設したIoTグローバル拠点は、IBMがその最先端を走る大きな武器になるだろう。

昨年12月15日、IBMは、質問応答システム「Watson」のIoT新世界拠点を独ミュンヘンに置くと発表した。開発と顧客対応部門で1,000名以上の社員を擁する新事業所は、IoTビジネスを制するというIBMの目論見の下に設置された世界中の8つの地域拠点の中でも中心的な存在だ。

IBMのClient Experience Center(クライアント・エクスペリエンス・センター)は、北京、ボブリンゲン(ドイツ)、サンパウロ(ブラジル)、ソウル、東京に、そして米国ではマサチューセッツ州、ノース・カロライナ州、テキサス州に事業所が置かれている。米国の3拠点は米国内(および米管轄地域)で広がっているIoTビジネスに専念するという方針が示された一方で、ドイツへ本部を移設したことは非常に象徴的な行動であると、米調査会社Forrester Researchのアナリスト、Frank Gillettは話す。欧州最大の経済国、ドイツ始め、トップクラスの欧州企業に対し、米IBMは信頼に足る会社であることを示すためにミュンヘンの新拠点が設立されたのだろうとGilletは述べている。伝統的に王道を行くIBMは、欧州の人々と共に働くために、その環境にしっかり根ざし、固く結ばれた存在になると宣言するかのように、欧州に腰を下ろしたのだ。

このメッセージは大企業、およびセキュリティを重視する事業体に効果的な戦略であることが示されるに違いない。これはIBMが伝統的に得意としてきた顧客層であり、「Watson IoT」の登場で返り咲きを希望しているのだろう。

新しい事業拠点の設立と同時に、IBMはIoT事業におけるWatson APIサービスの追加についても発表した。外部にデータを転送することなくWatson IoTのインサイトを取得するため、各企業が持つテクノロジーに差し込むことが出来るコネクターとして機能する。これらは、いわゆる「cognitive computing」に焦点を絞っている。もっと簡単に言うと、データから得られたインサイトによって、どのように顧客に金が入るのかという点を、IBMは重視しているのだ。

発表時に、Watson IoT & Education担当ゼネラル・マネージャーのHarriet Greenは声明の中で、「(IoT)データの約90%は使われていない。既存のデータセットや蓄積された知識に並び、ついにリアルタイムのデータを利用出来るようになったことで、『認知、判断、学習』という独特な能力持ったWatsonは、企業、政府、個人に新たな道を開き、産業界や社会全体に利益をもたらす新しいインサイトが今まで想像しなかった相互関係生み出す」と述べた。

調査会社Forrester のアナリストであるGillettは、90%あまりの不用なデータが手付かずの状態で放置されているのには、それなりの理由があると述べている。「干し草の山の中の針を見つけるには、相当の時間がかかる」と言うのだ。しかし、その方が安くつくかもしれないし、今まで収集したデータより広い範囲で探し出すことに一考の価値ありと、企業は判断するかもしれない。IBMがIoTビジネスの顧客であると発表したシーメンスや、IBMと組むことで世界的企業への発展が期待出来るとGillettが確信するVerizon Wireless(ベライゾン・ワイヤレス)などは、その候補者と言える。またThe Weather Company(ウェザーカンパニー)の買収によって、IBMは貴重なデータが取得出来るようになった。

Watsonのブランド名のもとに全てを入れ込むことで、Internet of Things = モノのインターネットは、現実的な事業分析にどう結びつくかが問われるものであるというIBMのメッセージをより強固なものにしている。これまでIBMがWatsonブランドを乱用したというわけではないが、Watsonの名前にはマーケティングの要素もある。この数ヵ月、大手IT企業によるIoT関連の発表を全て追ってきたGillettは、Amazon Web Serviceが10月に発表したIoTプロダクトのサービスの方が、IBMよりも詳細な説明であったと話す。

「IBMは仕様をもっと盛り込む必要がある。しかし投資、組織構造、本部と来て、今や全てのIoT 提供企業の中でも一番強くアピールしてしまっている。IBMは早急に仕様の作成と提供に取り掛からなくてはならない」とGillettは言う。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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