ユーザベース 梅田優祐・新野良介・稲垣裕介ー「世界一の情報インフラ」への道 前編

左から稲垣裕介、梅田優祐、新野良介 / photograph by Jan Buus

「創業以来、有言実行を続けてきましたが、昨年末初めて目標を達成できなかった。今年は悔しさからのスタートでした」

取締役COOの稲垣裕介はユーザベースの2015年をそう振り返った。

創業後間もなくリリースしたBtoB向けの企業・業界情報サービス「SPEEDA」はこれまで、圧倒的な使い勝手の良さで、導入実績を急速に伸ばしてきた。すでに国内での導入実績は500企業・団体を超えるとはいえ、昨年はその成長曲線が計画通りに伸びず、ごくわずかの差で目標としていた数値に届かなかったのだ。

計画未達の理由ははっきりしている。

2年前より開始した海外事業が想定以上に伸びなかったのだ。当初は日本で受け入れられたSPEEDAを英語対応さえすれば、すぐに海外でも受け入れられると考えていた。しかし、香港、上海、シンガポールの3拠点を同時に開設し、実際に販売を開始してみると、細かいニーズが各国ごとに違うことがわかった。

現地ユーザーの声に耳を傾け、サービスをローカライズさせることを怠っていたのだ。また、日本国内でもそれまでメインターゲットにしていた顧客層である金融機関だけでは、成長をさらに加速させることはできない。当然、新たな顧客層の開拓を進めたが、海外事業の遅れをカバーするほどの伸びを実現できなかった。それが、ユーザベースにとって創業以来初めての計画未達の主因となった。

同社の投資家のひとりは当時の様子を、驚きをもってこう語る。

「軽微な未達だったにもかかわらず、未達には違いないからと、直接の責任者である新野(良介・代表取締役共同経営者)さんは『責任を取って役員報酬を減額したい』と申し出てきた。自分を守ろうとしてばかりいる起業家が多いなか、これは珍しいと思ったら、それでは済まなかった。なんと共同経営者の梅田優祐さんと稲垣さんが揃って『計画未達は等しく俺たち経営陣の責任だ。役員報酬減額は3人揃って負うべきだ』と言い出したんです。その喜びも苦労も分かち合おうとする姿勢に、これは強い経営チームだと感じました」

計画未達の悔しさをバネにサービスを強化して成長を遂げる

実際のところ、ユーザベースの業績はこの1年で大きく伸びた。それは報酬減額の責を負った3人ともが認めている。

その要因のひとつが2013年にスタートした、ソーシャル経済ニュース「NewsPicks」の急成長である。年初には30万人前後だったユーザー数を、今年の11月までで3倍以上の90万人に伸ばし、目標としていた「年内に会員ユーザー数100万人達成」は確実な状態。これによりネイティブ広告と有料購読というふたつの収益源の伸びが好調だ。

人気の理由のひとつは、毎日山のようにやってくる経済ニュースに対して「ピッカー」と呼ばれるユーザーや専門家がコメントをつけて、ニュースを多面的に理解できる点だ。しかも、NewsPicksで気になる専門家をフォローしたり、優良なコメントに賛意を示す「LIKE」ボタンがあったりと、これまでの経済ニュースとは異なる仕掛けが施されているからだ。さらに、他社ニュースをそのまま配信するのだけではなく、各分野のスペシャリストを集めた自社編集部がオリジナル記事を配信しているのも人気の秘密となっている。

業績を伸ばしたもうひとつの理由は、立ち上がりが遅れていたSPEEDAの海外事業が、現地ユーザー向けにプロダクト開発を強化したことによる成果が表れ始め、堅調な成長を遂げた点だ。前出の投資家はコンサルティングサービスを進化させた点を高く評価する。「SPEEDAの顧客が求めているのは、データベースではなく意思決定のためのソリューションであることに彼らは気づいていたわけです。それで単なるデータベースではなく、データを分析・加工しやすいインターフェースをつくった。これをさらに強化させていったところがすごいと思う。

『インドネシアに子会社を持つ企業リストってある?』『過去3年間で業績修正をした企業を抽出したい』といった、顧客の求める“特殊”な要望に素早く応えるサポートデスクを強化したのです。つまり顧客に『そこまでやってくれるの?』と言われるくらいの情報を提供できるようになった」

目標未達という“壁”にぶち当たったことを、事業強化の機会にしてしまったことが、この1年の好業績に結びついた。それなのに、彼ら経営陣は、「08年に創業して7年もたつのに、『まだここにいるのか!』と歯がゆい思いは消えない」(梅田)、「これまで全速力で走ってきたのに、まだ遅いという気持ちがある。個人的にはまだまだやれるはずだと思っているし、伸びしろもまだある」(新野)と、現状にまったく満足していない。


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文=鈴木裕也(フォーブス ジャパン編集部)

この記事は 「Forbes JAPAN No.18 2016年1月号(2015/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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