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2015.12.17

フォーブスが選ぶ革新的新薬大賞 初回受賞薬は「カリデコ」

Boston Globe / Getty Images

2015年12月3日、初となるフォーブス・ブレークスルー・ドラッグ・アワード(画期的新薬アワード)が発表された。選ばれたのは、バーテックス・ファーマシューティカル社のカリデコ(Kalydeco)である。嚢胞性線維症財団の支援で開発された嚢胞性線維症治療薬で、数十年に渡って研究者が挑み続けてきた難題を制し、患者の生活を劇的に改善した、として選ばれた。

ニューヨークで開催されたフォーブス・ヘルスケア・サミットで、バーテックス社CEOのジェフリー・ライデンと、カリデコの開発で中心的な役割を果たした科学者のフレッド・ヴァングーアに賞が贈られた。

「カリデコは致死性の極めて高い疾患である嚢胞性線維症に対する初の効果的治療薬なのです」と審査を行った専門家パネルの1人であるクリーブランド・クリニックのスティーブン・ニッセンが語る。「嚢胞性線維症の子どもを診たことはありませんが、この疾患が患者本人、そして家族にとっていかに過酷なものであるかはよく知っています」

その他の審査員は、製薬業界の価格設定を批判してきたメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのピーター・バック、製薬業界のアナリストの重鎮である投資調査会社SSRリサーチのリチャード・エバンス、新薬開発の難しさを研究しているコンサルタントのバーナード・ムノス、そして筆者である。

審査パネルは満場一致で過去数年間に認可された新薬について検証することにした。なぜなら、画期的な新薬は毎年登場するわけでもなければ、一年にいくつも登場する年もあるからである。また、発売後数年経過した薬のみを対象とすることにした。これは、実際に市場に出てみると当初の予想以上にインパクトがあることもあれば、予想したほどの存在感がないこともあるからだ。そして、パネリストがそれぞれ選定した新薬を全体で議論する形で検討を進め、最終的に候補薬を投票形式でランキングして受賞薬を決定した。

カリデコの受賞は大差で決定した。全審査員の高評価を受け、今回の評定スケールでも四つ星を獲得した。しかし、他にも同時期に認可された重要な薬はいくつもある。上位から順に、高順位に入った候補薬を紹介しよう。

***エリキス/Eliquis(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ、ファイザー)
血栓や脳卒中のハイリスク患者に処方される抗凝血薬と言えば60年前からワーファリンが重用されてきたが、継続的な経過観察が必要となる。そのワーファリンの代替となる様々な抗凝血薬が登場していて、脳卒中のリスクをワーファリン以上に低減できるとするデータが出ているものもある。そうした新しい抗凝血薬の中から、今回審査パネルが最も優秀なものとして選んだのは、一番早くに発売されたベーリンガー・インゲルハイムのプラダクサを抑え、エリキスだった。

**ザーコリ/Xalkori(ファイザー)

特定の異常な遺伝子を持つ非小細胞肺がん患者に劇的な効果のある分子標的薬である。バックは、がん治療薬の中でも、特定のがん細胞増殖に関わる異常遺伝子を標的とする初のがん治療薬で、認可時に同薬に対する患者の反応性を診断する検査(コンパニオン検査)も確立されていたことにも注目した。また、コンパニオン検査があったことで原因遺伝子が発見されてからたった4年という短期間で認可を獲得、新薬認可に新しい道を切り開いた薬でもある。

**ヤーボイ/Yervoy(ブリストル・マイヤーズ・スクィブ)
2011年に認可されたヤーボイは、致死率の高い皮膚がんである悪性黒色腫治療のために、10年ぶりに開発された薬である。免疫機能を高めてがん細胞を攻撃させる新しい系統のがん治療薬の先駆けでもある。

*パージェタ/Prejeta(ロシュ)
乳がん治療に非常に高い効果を発揮してきたハーセプチンの後継薬。パージェタは更に高い効果を発揮するがん治療薬である。

どの審査員も気にしたのが薬価の問題だった。ここに挙げた薬品はいずれも非常に高価で、中でも最も高額になるカリデコは1人の患者が1年間使用すると定価で305,000ドル(約3,700万円)かかる。何度か、価格も判断要因に含めることを検討したが、最終的にはあまりに多くの薬が高価であることを理由に、採用しないことに決めた。単体ではさほど高価ではないヤーボイを選んだとしても、併せてブリストル・マイヤーズの更に新しい薬であるオプディボも使うことにした場合、1患者当たり年間256,000ドル(約3,100万円)かかる。結局、薬価はもっと大きな業界の(開発)システム上の問題なのだ。

我々がカリデコを選出することに決めた理由は、カリデコが若くして命を奪う致死率の高い疾患に対して劇的な効果を見せたことである。嚢胞性線維症を引き起こす遺伝子は1989には発見されていた。そこから治療法が発見されるまでに30年を要し、その治療法でさえごく一部の患者にしか効果のないものだった。(バーテックス社はこの治療法をより幅広い種類の嚢胞性線維症遺伝子異常に対して効果をあげられるようにした新薬オルカンビも開発したが、カリデコとコストは同水準ながら効果はカリデコに軍配があがった)。カリデコが成し遂げたことは、まさに現在の製薬業界がもつ最高にして最先端の力を発揮した、大変なブレークスルー(画期的な発明)なのである。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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