これらの州が発行する身分証は、連邦政府が定める厳しい基準を満たしていない。そのため運輸保安庁では、搭乗の際、運転免許証ではなく、パスポートの提示を求めることになる。運輸保安庁は、発行コスト55ドルのパスポートカードと135ドルのパスポートブックを有効なIDとして受け入れる。ある情報では、ミネソタ州では、国内便を利用する人は2016年1月までにパスポートを取っておく必要があるとのことだ。ニューヨーク州は免除措置があるため、まだ運転免許証で大丈夫だ。ルイジアナ州も2016年10月10日まで免除措置があるため、やはり現在の運転免許証で問題ない。ニューハンプシャー州も同様で、2016年6月1日まで免除措置をもらっている。
余計な疑いを避けるためにも、一番いいのはパスポートを用意しておくことだろう。それでもIRSからは、パスポートの有効性に関して一言あるかもしれない。H.R.22法案が下院と上院を通過した。これは税法7345条として新しく法制化される見込みだ。条文のタイトルは、「一定の税金の滞納がある場合のパスポートの取消または否認」だ。
この考え方は、連邦会計検査院が税金の徴収にパスポートを利用する可能性に触れた2012年に遡る。ハリー・リード上院議員(民-ネバダ)がそれに賛意を表明し、オーリン・ハッチ上院議員がReporters and Editors誌に意見を投稿した。それ以後、この考え方は徐々に人気を得ていった。国務省は、5万ドルを超える多額の税金の滞納があるとIRSが認定した人間に対して、パスポートの取消、否認、使用制限を命じるようになる可能性がある。
この法案が議会を通過するという前提で、2016年1月から、国務省は、税金滞納額が多額に上ると見られるアメリカ市民に対して、その行動に制限をかけ始めることになる。どのようにしてこれを実行していくのかといった詳細は明らかにはなっていない。しかしこのことは、パスポートの新規発行や再発行がなくなる可能性も意味するだろう。国務省は、そうした条件に当てはまる人々が現在持っているパスポートをはく奪することさえあるかもしれない。
これによって影響を受ける納税者のリストはIRSによって作成される。IRSは連邦税の滞納5万ドルをその基準として使う予定だ。ただ、この5万ドルは罰金や利子を含んでいる。そして、知っての通り、利子や罰金は急速に膨れ上がるものだ。しかし、もしあなたが税金の支払いのことでIRSに異議を唱え、または裁判で争っていたとしても、そのこと自体は関係ない。
また、行政上の例外規定も用意されていて、緊急の場合や人道上の理由がある場合には、国務省がパスポートを発行できるようになっている。しかし、それが実際どのように行われるのか、あるいは、特別な措置を受けるのにどれ位の時間がかかるのかなどは不明である。また、税金滞納分を分割で支払う旨を取り決め、その通りに支払っている限り、搭乗は可能である。
この一連の動きは力強いもので、人々とIRSとの付き合い方を一変させる可能性がある。しかも、この厳しいルールが適用されるのは、刑事上の税法違反の場合に限らない。また、連邦政府があなたを納税忌避者として見ている場合だけとも限らない。あなたのパスポートは、単に、あなたがIRSに対して5万ドル以上の支払義務があり、IRSが先取特権通知を届け出るだけで取り消される可能性があるのだ。
5万ドルの納税義務は、今日では簡単に発生する。特に、利子や罰金を考えた場合にはそうだ。加えて、IRSは日常的に租税先取特権を届け出ている。それが、IRSが税金滞納者に通知するやり方であり、このようにしてIRSは支払を受けるのである。その意味では、飛行機に全く乗れなくなると考えるのは極端すぎるようだ。IRSの租税先取特権は全財産に及び、それは先取特権の届け出がなされた後に取得した財産にも適用される。裁判所は、破産手続きや不動産の売却時に優先権を確保するために先取特権を利用する。IRSは、以下のことが起こった後で、連邦租税先取特権通知を届け出る。
・IRSが債務を査定する
・IRSが金額を表示した支払通知および請求書を送付する
・10日以内で満額の支払がなされない
の3つだ。
租税先取特権の届け出は間違ってなされることもあるが、ほとんどの場合、間違いはなく、IRSの先取特権は有効だ。それでも時折、税金の支払い義務はなく、ただ膨大な事務作業をこなすだけで事足りるという人もいる。こうしたことを全て踏まえた上で、もしこの法案が成立した場合、それは有権者の異議申し立てにさらされるのだろうか?そして、これはそもそも合憲なのだろうか?州をまたぐ、あるいは国をまたぐものであっても、移動の権利は確立されている。一定の規制は受け入れられてはいるものの、このやり方が合憲かどうかについてはまだ明らかにはなっていない。
約800万人に上る海外在住アメリカ人はどうだろうか?彼らの多くはすでに、FATCA遵守の問題で動揺をきたしている。加えて、私たちはパスポートを海外に行く際にのみ使うものと考えているが、アメリカ本土内での飛行機にも必要となれば、パスポートは今より一層大事なものになる。