ウェアラブルは医療現場では役に立たない!?

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米クアルコムは、ここ数年でフィットネストラッカーのデータを医師たちが活用する未来が訪れると予測している。そんな記事が今年初め、ニュースメディア「クォーツ」で配信された。

クアルコムは、フィットネス用ウェアラブル端末をネットワークに接続するクラウドベースとして2netプラットフォームを開発しており、その中心的存在となろうと目論んでいる。最近の調査結果では、全米のフィットネストラッカー利用者の半数以上が途中で使用を止めていることが明らかになったが、このプラットフォームは、フィットネストラッカーの継続的使用を促すのが目的で開発されたわけではない。

フィットネストラッカーを一度でも使った経験があれば、続かない理由は分かるはずだ。お金がなくても健康管理はできるし、あまり見栄えもしない。家族のために懸命に働きながら、家賃の上昇や借金の残高に怯える人々にとって、一日の歩数や心拍数、飲んだ水の量などはあまり大きな意味を持たない。

医者の多くも、ウェアラブル端末が医療にもたらす恩恵にはさほど期待していないようだ。「MITテクノロジー・レビュー」の特集記事は、様々な専門分野の医師が、患者が持ち込むフィットネストラッカーのデータに困惑しているとしている。

「フィットネストラッカーを使う患者の1日の歩数を知っても、臨床医にこれといって出来ることはありません」とカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者、ニール・シーガル氏は述べた。また、米シアトルのセージ・バイオネットワークスのがん専門医、アンドリュー・トライスター氏もこの意見に賛同した。
「エクセルの大きなスプレッドシートに詰め込んだ自分の健康情報を見せてくれる患者さんもいますが、それをどうしろというのでしょう」

現実的な問題のひとつは、トラッカー自体に医療現場で使用できるほどの信頼性が無いことだ。測定機能は低価格の市販品レベルに留まり、ちょっとした問診や簡易検査でも分かる程度の大ざっぱな数値以上の結果は期待できない。中には小型の埋め込み式で、糖尿病患者のインシュリン濃度を管理するデバイスのような製品もあったが、ひどい不眠症や妄想を引き起こし、患者が神経質になるあまり逆に病気を悪化させることもある。

この春、全米退職者協会(American Association of Retired Persons、AARP)が、11人の医師に対しアメリカ人のヘルスケア・システムを改革するために今ひとつだけ行うとしたら何かという質問をしたところ、最も多かった答えは、「患者がより多くの情報データを提供することではなく、健康管理のために患者自身が出来ることについて、より多くの選択肢と情報を提供することだ」というものだった。

「消費者は、それを使えば有意義な結果を得られるという、それだけの情報で健康グッズを購入しているのです」と米ジョンズ・ホプキンス・メディスンのピーター・プロノヴォスト理事長は述べている。

「消費者がこの手の製品の情報と同じくらい、国のヘルスケアに関する情報を得られたら、どれほど有意義なことでしょう」とプロノヴォスト氏は述べた。

残念ながら、フィットネストラッカー業界は、それとは逆の方向へ人々を導いているようだ。健康に問題を感じていない人間にやみくもにデータを集めさせておいて、体重や心拍数をはじめとするそれらの雑多な数字を読み解いて診断を告げるのは医者任せだ。

フィットネストラッカーは、ジョギングや毎日の歩数管理といった用途では役立つかもしれないが、そこに過剰な期待を抱くのはやめておいたほうがいいだろう。

編集=上田裕資

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