石油メジャー、ペトロブラスの時価総額の80%が吹っ飛び、建設業界の新興実業家を刑務所に送り込み、エドゥアルド・クニャ下院議長とレナン・カリェイロス上院議長を巻き込んだ。つまり、ブラジル経済は与党労働党(PT)のせいで瀕死の重傷を負っているということだ。
ルセフ大統領が、任期満了に伴い首都ブラジリアを去る2018年以降の将来を望んでいるなら、自身のそして与党の政治生命を救うため、自国経済を再び成長させなくてはならない。今年は3.5%のマイナス成長で来年は横ばい、今のところこれが最善のシナリオだ。
確かにブラジル株はこの1カ月10%近く上昇した。この国のファンダメンタルな変化よりも米ドル高の頭打ちに関連している。市場はテクニカル要因だけで動いている。今のブラジルには悪いニュースしかない。バリューファンドや利回りの高い現地通貨建て債券選定の担当者でない限り、ブラジルには誰も興味を持たないだろう。
ブラジル労働相は11月20日に、10月の雇用喪失は16万9,131人と発表。前年同期は12万3,785人の雇用創出だった。年初来の失業者数は、89万8,714人となっている。前年同期は69万9,841人の雇用創出だった。季節調整済みでは、10月の失業者数は18万6,351人と、過去最低水準を更新した。
セクター別では、産業部門に失業者が集中しており、これに小売りと建設セクターが続く。建設部門は政府がもはや大手開発業者に発注しないため引き続き人員を削減している。ほぼ全大手エンジニアリング、建設会社が洗車作戦スキャンダルに関与しており、今年だけで約3万人の人員が削減される。これらの多くが未熟練労働者なため、同等の賃金の仕事を見つけるのに苦慮する。これら3セクター合わせて失業者数は85万2,095人となる。これは個人支出に打撃となるが、ブラジル経済は国内消費が頼りだ。
ニューヨークのバークレイズ・キャピタルの債権アナリスト、ブルーノ・ロバイ氏は「20日の失業率が予想よりも悪かったことと、失業者が求職をあきらめる方向に変化していることが相まって、消費者信頼感が引き続き落ち込み、今年と来年の家計消費支出が減少する」と指摘する。同氏は今年の減少率を4.0%、来年は3.3%と見込んでいる。
ブラジルのインフレ率は今週12年ぶりに10%を上回った。これが来年、ブラジル中央銀行に利上げ圧力をかける。現在金利は14.25%。野村証券は同じく20日、中銀は特に消費者にとって、既に高い借入コストをさらに引き上げて景気を損なうリスクは冒さないので金利を来年は据え置くとの見通しを示した。一方、アメリカの債権を統括するホアオ・リベイロ氏は利上げのリスクがあるとの見解を示した。
こうしよう。ブラジル中銀の元総裁エンリケ・メイレレス氏が総裁だったら、金利はもっと高かっただろう。同氏はレビ財務相の後任とされており、先週、メイレレス氏はレビ財務相について、ブラジルの悪化する財政見通しに注意を払うことで正しいことを行っていると語った。
米格付け機会社フィッチ・レーティングスはブラジルの信用格付けをジャンク級に格下げすると警告している。米国とおそらくブラジルでの利上げと、投資適格級格付けを再度失うことで(S&Pは既にジャンク級に格下げしている)、ブラジル企業の資金調達コストが一層上昇する。
ブラジルの財政上の脆弱さは信頼できる財政政策見通しにかかっているとメイレレス氏は指摘する。政府の財政目標には緊縮財政が求められる。投資家は刺激策を当てにすべきでない。野党が、政権に就いていたらこれができるかどうかも疑問だ。
バークレイ・キャピタルズのアナリストらは20日付のリポートで、基礎的財政収支の赤字は目標を下回るとみられ、市場ストレスが穏やかな状況下でさえ財務残高(対GDP比)は、2014年末の65%から19年は87%のピークに達する見通しを示している。そのような悪化の見通しはブラジル資産のなお一段の売却につながる公算があり、ブラジルの浸透性を考えると特に影響を受けやすい新興国市場に悪影響がもたらされる可能性がある。
ブラジルは基礎的財政収支の赤字、大きな公的債務、実質的な高金利、成長率鈍化、雇用市場の不調、コモディティ(特に大豆、鉄鉱石)価格の下落とソブリン債務引き受けの恐れという複合的な毒性に直面している。これはすべて、現在3,250億ドル超の準備金にもかかわらず、ブラジルの公的債務に支障をもたらす。
ブラジル政府財政への押し下げ圧力はコモディティ価格下落と景気の急激な悪化にも一部関係する。しかしながら、ブラジル財政の悪化は構造的でもある。政治は役に立っていない。
バークレイズは、ブラジルは経済政策が支払い能力をめぐる懸念によって支配される「フィスカル・ドミナンス」の状況に陥っていると指摘する。これがレビ財務相と次期財務相と目されるメイレレス氏が緊縮財政、つまり増税を信条とする理由だ。野党の元中銀総裁アルミニオ・フラガ氏だけがこれに反対の立場だが、これは少なくとも一部はこの混乱に責任を取る立場にいないことの好都合によるものだ。
ブラジルの公的債務の高金利に対する過敏性を考慮して、中銀はインフレ高にもかかわらず金融引き締め策を講じるには気が進まない。つまり来年、インフレは中銀の期待とは裏腹に目標からほど遠いものとなるだろう。
これはトンビニ中銀総裁についての疑問を提起するかもしれない。同氏はインフレターゲット制を引き継いだが、5年前の就任以来実行できていない。
ブラジルはこの公的債務の問題から抜け出せるが、同国の政治的泥沼で短期的には楽観視できる見込みはほとんどない。
ブラジルは景気低迷の中、コモディティ価格ショックに突入した。実際は、直近では2013─14年のコモディティ価格が堅調だった時の水準でも企業投資はわずかな拡大しか見込まれていなかった。理由は当時約7%のインフレ率で企業のCFOが不安になっていたからだ。
さらに10─15年の間、国民貯蓄率は下落している。その結果、経常赤字は徐々に拡大している。投資率の低さと生産性の伸び鈍化が相まって、ブラジルの低成長をもたらし、景気刺激策を利用できる局面で、政治的マヒと経済危機に財政悪化と高インフレが加わった今日のような姿となった。ブラジルで近い将来景気刺激策が講じられることはまずないだろう。