リーダーシップ

2024.05.13 13:30

世界の識者が注目! 北欧発・内面発達目標「IDGs」とは何か

Forbes JAPAN編集部
1992

一人ひとりの心が変われば、世界の運命も変わる──。北欧発の新たな指標は、人類共通の課題に立ち向かうため、組織のリーダーの「心」の状態に着目する。


2023年初頭、私は三菱商事ストックホルム事務所における、北欧新規事業開発という魅力的な仕事を捨て、Inner Development Goals - IDGs(内面成長目標)というスウェーデン発の指標を、日本に紹介するという新規事業に身を捧げる決意をした。

これまで、大企業、コンサルティング、スタートアップ等、国内外さまざまな文脈で働いてきたが、事業の運命は関係者の「心」に左右されることを痛感してきた。

SDGsについて語りながら、自身のエゴに苦しみ、時に不合理な行動を取る起業家や投資家は多かった。自己保身のための情報隠蔽や虚言、ハラスメントは国内外問わず、大企業はもちろんスタートアップでも起こるが、背景にある心の傷や内面課題について、立場のある人が立ち止まって内省するなど、男性的な組織では許されない。

世界に利する真のイノベーションを起こすには、まずは組織をけん引するリーダーの心の状態を整えることが重要ではないのかと考えていた。そんなとき、Googleで開発された脳神経科学に基づく研修プログラムを日本で提供する一般社団法人MiLI(マインドフルリーダーシップインスティテュート)からお声がけいただき、かかわるようになったのがIDGsだった。

大人でも知性や意識は成長できる

2015年の国連サミットで、2030年までの目標としてSDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)が設定されたが、世界的に実態の伴わない「グリーンウォッシュ」が進み、進捗は芳しくない。

このような状況に対し、SDGs達成にはそれを担う人間の集合的な心の発達が必要なのではないか、というスウェーデンの有識者間の会話から始まり、調査を経てフレームワークに落とし込まれたものがIDGsである。

IDGsでは、成人になっても知性や意識は発達を続けるという「成人発達理論」を前提に、特に社会変容を推進する組織を率いるリーダーがもつべき内面的性質として、「自分のあり方」などの5つの側面と「創造性」、「謙虚さ」など23のスキルを提案している。自己啓発以上の概念で、社訓に近いものがある。

創設者のひとり、スウェーデン人の実業家で哲学者のトーマス・ビョークマン氏は「IDGsはコミュニケーション・プロジェクトである」と語る。彼によると、IDGsは新しいドグマの押しつけではなく、古今東西の宗教・哲学とも似通った、発達途上の概念であるのだが、環境・外側の成長だけを追い求めてきた近代資本主義化のなかで、ないがしろにされてきた心・内面の発達についてあらためて問う、会話のきっかけとすることが意図されている、という。

また、IDGsアドバイザーで『学習する組織』の著者、ピーター・M・センゲ氏が言うように「IDGsの主旨は素晴らしい」が、「内面発達はゴール設定できる単純なものではなく、慎重な議論と調整が必要」だ。

確かに心が計測可能になれば、人間の心理状態や性格をシステムが測定し、潜在犯を裁く近未来SFアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のようなディストピアになるだろう。
次ページ > 世界が注目するIDGs

文=小林麻紀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事