健康

2024.04.29 15:00

睡眠は「短すぎても長すぎてもダメ」、慢性疾患の予防にも重要

木村拓哉

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睡眠は大事だとずっと昔から言われてきた。睡眠は神経を整え、脳の発達にも貢献している。また、体の傷んだ部分を癒し、体の状態を最適化するために睡眠中に細胞レベルで修復が行われ、機能を回復させる。こうした働きから、生命を維持する上で睡眠がなぜ重要かがわかる。

極めて基本的な睡眠の必要性にとどまらず、新たな研究では、睡眠不足と慢性疾患の発症に多くのつながりがあることがわかってきている。科学誌のネイチャーに掲載された論文では、好ましい睡眠時間や規則正しい睡眠習慣、質の高い睡眠は、高い免疫力の維持や神経変性疾患の予防、自己免疫疾患の軽減において極めて重要な要素だと指摘されている。

逆説的だが、睡眠で得られる最良の結果をグラフで表すと、一般的にU字型の曲線を描く。つまり、睡眠時間が短すぎても多すぎても認知や記憶の機能低下につながることが研究でわかっている。理想的な睡眠時間は、U字型曲線の両端ではなく、一番下(中間)あたりだ。

さらに、睡眠の重要性に関しては睡眠時間ばかりが注目されがちだが、多くの研究で不規則な睡眠が慢性疾患の発症にとりわけ関連していることが示されている。睡眠の規則性とは、睡眠のパターン、タイミング、時間、質の一貫性のことだ。例えば、睡眠時間が毎日同じでなかったり、就寝・起床の時刻がバラバラだったり、不規則に昼寝をしたりする人は、不規則な睡眠を取っていることになる。

こうした睡眠の不規則性あるいは一貫性の欠如は、肥満や心疾患、短い寿命、認知機能の低下などのリスクと特に関連していることが研究で明らかになっている。米国心臓協会のジャーナルに掲載された最近の研究では、睡眠時間が規則的な人と不規則な人を直接比較したところ、不規則な人の方に動脈硬化が進んだ状態である冠動脈石灰化が多いことが示された。一般に、規則正しい睡眠は心臓の健康を保ち、高血圧や糖尿病、肥満や冠動脈性心疾患などさまざまな病気の予防に重要な役割を果たしていることが次第に受け入れられてきている。

睡眠が健康に大きく関係していることは明白として、なぜ睡眠の習慣が世界的に悪くなっているのだろうか。残念なことに、健康を維持する上で最も重要な要素として睡眠を優先する社会通念が急速に薄れている。

加えて、テクノロジー製品の普及によっても睡眠習慣が悪化している。寝る前にスクリーンを見ると、デバイスが発するブルーライトの影響を大きく受けることが数多くの研究で示されている。ブルーライトは睡眠ホルモンであるメラトニンの自然な分泌を阻害する。そのため、睡眠の専門家は、家庭でのデバイスの使用を厳しく管理し、就寝の数時間前にはデバイスの使用をやめることを勧めている。

さらに、個人のストレスレベルは世界的にかつてないほど高まっている。理由としては、労働環境や生活の変化、金銭面での不安、そして多くの人が生活する上で基本的に必要なものやリソースを利用できないことなどが挙げられる。ストレスは質の高い規則正しい睡眠を阻む基本的な要因で、睡眠の習慣が世界的に悪くなっているもうひとつの理由だ。

幸い、このテーマに関する意識は高まりつつある。睡眠不足の弊害、そして睡眠が長寿と健康にとっていかに重要であるかについて広く知ってもらうことの重要性があらためて指摘されている。また、この分野の研究資金もありがたいことに増えており、睡眠学と研究の発展が今後期待できそうだ。世界的にストレスや課題が増えているにもかかわらず、各世代の考え方も健康と幸福を優先する方へと変わりつつあり、これも明るい未来につながるものだ。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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