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2024.05.02 09:30

自然言語でアイデアを画像化、工業デザインソフトの米Vizcomが資金調達

木村拓哉

Getty Images

エヌビディアの工業デザイナーだったジョーダン・テイラーは、2021年7月に仕事を辞め、中学時代の友人と自宅の居間で新たなプロジェクトを開始した。それは、工業デザイン業務のパフォーマンスと効率性を向上するソフトウェアを開発することだった。

彼が立ち上げたスタートアップVizcom(ビズコム)はプロモーションを行わず、わずか数百万ドルの資金で、フォードやニューバランスなどの大手企業を顧客に獲得した。カリフォルニア州マウンテンビューに本拠を置くビズコムは米国時間3月28日、インデックス・ベンチャーズが主導したラウンドで2000万ドル(約30億円)を調達したと発表した。調達した資金は、研究開発や採用、マーケティングチームの設立に充てるという。

これにより、同社の累計調達額は約2600万ドル(約40億円)に達し、評価額は1億ドル(約151億円)となった。同社によると、現在の売上高は数百万ドル規模だという。

28歳のテイラーは、かつてホンダで車のデザイナーとして働いていた。「これほど事業が成長するとは考えていなかった。当初は、会社を経営することの意味すらよく理解していなかった」と彼は話す。

インデックス・ベンチャーズのパートナーのニーナ・アチャジャンによると、今回のラウンドは競争が非常に激しかったという。テイラーの若さと情熱は、現在32歳のフィグマ創業者であるディラン・フィールドや、現在27歳のスケールAI創業者、アレクサンダー・ワンなど、インデックスが過去に支援した大物起業家を彼女に想起させたという。

「会社作りのイロハは教えることができるが、情熱やビジョン、顧客に対する執着心は教えられるものではない」と彼女は言う。

アドビやオートデスクなどの大手企業は、長年工業デザイナー向けソフトウェアを手掛けてきたが、この分野へのスタートアップの参入はほとんどなかった。ビズコムの工業デザインソフトウェアを使えば、デザイナーが自然言語によるコマンドでアイデアをリアルな画像にレンダリングすることができ、無限にあるバリエーションの中から最適なデザインを見つけることが可能だ。「従来は3時間かかっていた作業が、3~5秒で完了する」とテイラーは言う。

エヌビディアを辞めて起業

ビズコムCEOのテイラーと、共同創業者兼CTOで、現在28歳のカエラン・リチャーズは、自動車産業の中心地デトロイトの郊外にあるロチェスターヒルズで、小学5年生のときに初めて出会った。幼い頃からアイデアに溢れていたテイラーは、在学中に車のプロトタイプを作ったり、ユーチューブでゲーム動画を制作していた(「私はゲームのコミュニティを作ることに夢中だった」と彼は述べている)。彼は、両親からスクリーンプリンターを買い与えられると、グラフィックデザインを施したTシャツや服を販売するビジネスを始めた。「ジョーダンは、アイデアを思いつくと実行に移していた。彼は常に時代の先端を行っていた」と、リチャーズは言う。

テイラーは、自身の仕事を効率化したいとの思いからビズコムのアイデアを思い付いたという。彼は、主にフォトショップを使って図面を描いていたが、デザインに変更を加えるたびに手作業で色を塗らなければならないことを面倒に感じ、テクノロジーを活用して効率化できないかと考えた。「私は、AIの未来について情報を集め、自分自身の業務を効率化するソリューションを作るにはどうしたらいいか考えるようになった。そこでカエランに電話して、『2週間後にエヌビディアを辞める。これからは貯金を切り崩して生活する』と伝えた」とテイラーは述べた。
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編集=上田裕資

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