働き方

2024.03.25 12:00

「モヤっていた」Z世代の私の心と、ジェーン・スーという処方箋

コラムニスト ジェーン・スー氏と筆者(左)

「Forbes JAPAN」本誌2024年5月号で、コラムニストのジェーン・スー氏を取材した。取材前には「スーさんを取材するの!? すごい」と同世代である20代、30代の同僚から声をかけられた。ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」では月間80万以上のリスナーを持つ。ジェーン・スー氏の人気はもう中年女性だけにとどまらない。

「モヤモヤを解く」スー氏の力


筆者がスー氏に出会ったのは、大学生のころに就職先に悩んでいたとき。記者の仕事に興味があり、通信社でアルバイトをしていた。筆者のいた、多忙を極めるその部署は女性と男性の比率が1対9だったが、男性記者の中で生き生きと働く女性記者が、まあそれはカッコよく見えた。しかし、女性のほとんどが独身だった一方で、男性はみんな結婚していたことに気づいた。

今思うと、彼女たちはあえて結婚しないことを選択していたかもしれないが、当時の筆者は「結婚はだれもがしたいもの」という考えに囚われていたので、「同じように仕事をしているだけなのに、なぜ女性は、働きながら結婚して家族を持つことが難しいの!?」と、もどかしいような怒りに近いような感情を抱いた。このまま記者を目指していいの?と人生で初めて性差について真剣に考えたのである。

そんな時にであったのが、ジェーン・スー氏と脳科学者の中野信子氏が、これからの女性の生き方を対談形式で語り合う書籍『女に生まれてモヤってる!』(小学館刊)だった。

これまでみてみぬふりをしていた、「女だから」とか「若いから」ということが理由で起こる理不尽な出来事を2人が言語化してくれることで、解決したわけではないが、自分のモヤモヤしていた感情を整理できて心が軽くなった。そこからスー氏の書籍を読み漁り、そしてラジオ「生活は踊る」を毎日欠かさず聴き始めた。

「生活は踊る」の相談コーナーでは、老若男女の悩みを聞くことで、いろんな生き方や考えがあることに気付かされ、たとえば大自然の風景を見たあと、自分の悩みがちっぽけに感じるときと同じように、スー氏の回答を聞いたあとは、荒んだ気持ちが少し楽になった。

「楽しそうなおばさん」に衝撃!


そして2020年になり、ジェーン・スー氏と、50歳でTBSを退職、フリー3年目という堀井美香氏の「OVER THE SUN」が始まった。スー氏の自由すぎるフリートークと堀井氏のすっとんきょうな相槌、2人の笑い声につられてコロナ禍でも元気をもらった人は多いと思う。私もその1人だ。

「OVER THE SUN」が始まってから、周りでもスー氏のことを知る人が増え、20、30代の間でも認知度が一気に上がったと感じる。

なぜ、月間リスナー80万もの人気を獲得できたのか、その「需要」はどこにあったのか、なぜここまで老若男女問わず人気になったのか。スー氏は、取材の中でこう説明してくれた。本誌ページには盛り込めなかったので、ここで紹介する。

「始める前から一定のニーズがあるだろうとは思っていました。なにかの肩書きがある人やお笑い芸人とかじゃない限り、これまでおばさん2人が雑談する番組なんてなかったから。

意思決定権をもつ層に男性しかいなかった時代には通らなかった企画かもしれない。中年女性が横滑りする話をしたり、悪ノリで何かをしたりする番組がお金になるなんて思ってなかったわけです。

それが今、番組内でいろんなスポンサーと一緒にタイアップができるのは、会社の決定権を持つところに女性がいるということ。スポンサー企業さんのマーケ担当者が互助会員さん(編集部注:番組では「リスナー」のことをこう呼ぶ)で、その人が会社に稟議書を出したらOKが出た、といった流れもあります。

番組では長らくお世話になっている、アミノ酸が補給できるサプリ『アミノバイタル(R)』の提供も、味の素に勤務する互助会員さんが番組に手紙を送ってくれたことが始まりです。先日は東海道新幹線車内でしか聞けない限定エピソードを配信する企画がリリースされ、それもJR東海に勤務する互助会員さんが実現させてくれたのです」

スー氏はまた、こう続ける。

「3年以上『OVER THE SUN』を続けてこられたのは、私たち女性が頑張ってきた、なによりの証なのです。

タイアップをしたいと女性が声を上げて、そこに予算がついてくるっていうことは、女性たちがそれぞれの持ち場で頑張ってきたということ。今までは見えてこなかった女性の頑張りや活躍が可視化されたことが、ポッドキャストをやりはじめてなにより嬉しい」

中年になっても存分に悪ふざけ、「新しいおばさん像」


「昔だったら良しとされなかったかもしれない『女性の悪ふざけ』も、やってみたら意外とみんなが楽しんでくれて。

これまでも『優雅で上品な』女性の成熟の方法、たとえば、ワインを嗜む、着物教室に通う、とかはあった。でも『中年になったって悪ふざけしていてもいいんだよ』っていう新しいおばさん像を体現して、人生の選択肢を増やしていきたいですね。

若いリスナーが増えているのもいい変化だと思います。私たち世代は、加齢に対して抵抗感が強くて、親と同じものを共有することに嫌悪感があったけれど、今の若い子たちは私たちの『おばさんコンテンツ』を抵抗なく楽しんで聞いてくれている。それは今の若い子たちが、女性の加齢に対しての恐怖が昔より少なくなっていることなのかなと思っています」

若者たちを容赦無く「置いていく」


この話を聞いていて筆者自身も気づいたのが、2人のトークに元気をもらい、自然と加齢へのネガティブなイメージがなくなっているということだった。

父親が腰を痛めて好きなゴルフを諦めたり、母親が老眼鏡を手放さなくなったり。加齢によるいろいろな「症状」が出てきた両親を見ていて、いつか自分もああなるのかと、年を重ねることへの怖さがあった。

しかしスー氏と堀井氏は、加齢に伴う物忘れや身体の衰えについて、それはそれは愉快に話す。

「ピンチはチャンス、の『ピンチャン同盟』を組んでいる私たちは、どんなことがあっても負けへんで!」と”迷”台詞でリスナーを勇気づけることもあれば、加齢による記憶力の低下は幽霊に憑かれたことにして「物忘霊(ものわすれい)」と名付けてみたり、閉経についての悩みやエピソードについて話す、平家物語ならぬ「閉経物語」を語ったり。

「あるよねー!」「わかるー!」と2人で盛り上がる様子に、「なんだか楽しそうだな」となる。年齢を重ねた人にしかわからない「あるある」に若者は話についていけなくなる。でもその容赦無く「置いていく」感じが、筆者もいつか共感したい!という気持ちになり、今では「おばさんになるのもいいな」なんて思っている。

振り返ると、筆者は学生時代に多忙ながらも生き生きと働く女性記者に憧れ、社会人になった今、スー氏と堀井氏のように、年を重ねても明るく楽しそうにしている女性に惹かれている。筆者のような20、30代からも支持が厚い理由は、スー氏らが、自分たちがおばさんおじさんになっても2人のように楽しく過ごしたい、というロールモデルになっているからだと思う。そしてこの思いはどの世代にとっても同じで、楽しそうなおばさんが「希望」になっているのだ。






※この記事に関するさらに詳しい情報は、Forbes JAPAN5月号 52ページ:『「私はアバター」 人生相談のプロが語る仕事との付き合い方』をご覧ください。

文=編集部・川上みなみ

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