経営・戦略

2024.03.06 15:30

苦戦するスタートアップを救え!3代目経営者の目算と「リスク許容度」

Forbes JAPAN編集部
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3人きょうだいの末っ子であるパイは、インドの西海岸に位置するマニパルで育った。祖父のT・M・A・パイはこの地で、インド初の私立医科大学となったカストゥルバ医科大学を設立している。父親と祖父にならってパイも医学の道に進み、1996年に同大学を卒業。

だが、医師を生業にするつもりはなかった。米国のウィスコンシン州ミルウォーキーの小児病院で病院管理学の特別研究員を修了し、シカゴの医療保険会社シグナに半年勤めた後、父親の命で一族の教育事業を拡大すべくマレーシアに向かった。

79年にカストゥルバ医科大学の経営を引き継いだパイの父親は、1990年代初頭のネパールを皮切りに国外でも医科大学を創設。パイは、2000年にマレーシアでの医科大学の立ち上げに駆り出された。同じ年、パイはMEMGを設立したが、これは拡大する教育と病院の事業を傘下にまとめるためで、シード資金の20万ドルは自身の貯金や、親族や友人からの借り入れでまかなった。

現在グループのポートフォリオには、前出の病院チェーン、4つの大学キャンパス、オンライン学習プラットフォーム、幹細胞研究会社、そして医療保険会社などが並ぶ。収益はこの4年で倍以上に伸び、23年度(3月決算)は743億ルピーとなった。増収の主な要因は、パンデミックが誘発したオンライン教育とヘルスケアサービスの需要の急増だ。

MEMGのオフショア学校事業の一つ、マニパル高等教育アカデミーのドバイ・キャンパス(Courtesy of Manipal Education & Medical Group)

MEMGのオフショア学校事業の一つ、マニパル高等教育アカデミーのドバイ・キャンパス(Courtesy of Manipal Education & Medical Group)

17年に父親が引退すると、パイはグループの指揮権と会長職を譲り受けた。パイは引き続き教育部門のマニパル・グローバル・エデュケーション・サービシズを拡大させており、そこに名を連ねる教育テックプラットフォームのユーネクスト・ラーニングは、マニパル・グループの各大学と提携し、16のオンライン学位課程を提供している。利用するオンライン学生の人口は、この1年で2倍近い5万人に増えた。パイの帝国は保険会社のマニパルシグナにまで広がっており、こちらは米国のシグナ・グループとの提携のもとで運営されている。

2人の娘をもつパイの思考が、一族のレガシーから離れることはない。

「経営が良好で、企業統治がしっかりした5、6社の持ち株を30〜40%保有していれば、それで十分です。保有する株が少数であれば誠実でいられますし、共同責任も発生します。後はやるべきことに集中し、確実に実行していくだけです」(パイ)


マニパル・エデュケーション・アンド・メディカル・グループ◎教育、医療分野で拡大するマニパル・グループの事業をまとめるため、ランジャン・パイが設立した持ち株会社。傘下にインド19都市29病院8300床の病院チェーンのマニパル・ヘルス・エンタープライジズのほか、教育部門のマニパル・グローバル・エデュケーション・サービシズ、ユーネクスト・ラーニングなど。

ランジャン・パイ◎
MEMGの会長。1996年、インド・カストゥルバ医科大学卒。米ウィスコンシン州の小児病院で病院管理学の特別研究員、シカゴの医療保険会社シグナでの勤務を経て、父親の事業に加わる。祖父はインド初の私立医科大学を創立した人物。父親は医療・研究分野にも進出し1991年に病院チェーンを設立した。

文=アヌラダ・ラグナサン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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