経済

2024.04.30 11:00

なぜ良い投資家は「言語化」が上手いのか? スパークス代表 阿部修平×Forbes JAPAN編集長 藤吉雅春

谷村友也
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ニューヨークの〝猛者〟たちと

藤吉:ソロスのファンドマネージャーになる前は、ニューヨークの米国野村証券に在籍されていたんですよね。

阿部:そうです。海外の野村の3大拠点というのがあって、業績No.1のロンドン、株が好調だった香港、業績はまだまだだけど、これから伸びると見られていたのがニューヨークだった。多分、当時200人ぐらい社員がいたと思いますが、僕は最年少の28歳でした。

藤吉:当時のニューヨークには錚々たるメンツが揃っていたそうですね。

阿部:僕の上司で部長の斉藤惇さん(後の東京証券取引所社長)、先輩に課長の北尾吉孝さん(現・SBIホールディングス取締役会長)や氏家純一さん(後の野村證券ホールディングス社長・会長)がおられました。氏家さんは私が野村総研でリサーチを担当した時の上司でもあり、私の野村退職と前後して米国野村証券の社長に就任されました。氏家さんは経済学でシカゴ大学の博士号をとっていますからね。

覚えているのは、野村の副社長がニューヨークに視察にくる日は、社員が全員集められて1人ずつコミッション(目標)を言わされるんです。その場で僕は「月間100万ドル稼いでトップセールスになります」と言ったんです。あとで先輩には「デカいこと言うな」と張り倒されましたが(笑)、結果的に1年半後に新規開拓でこの数字を実現することができました。

藤吉:新規開拓での数字達成はすごいですね。

阿部:僕みたいな若手営業マンは新規開拓するのが仕事だったんです。で、ある時、顧客の1人から、「ある州の公的年金基金が日本株での運用を検討してるみたいだから、行ってみたら?」と言われたんで、自分で担当者にアポをとって、飛行機で2、3時間かけて会いに行ったんです。

そこで僕が先方に提案したのは、「日本株のポートフォリオ営業」だったのです。普通の株の営業というのは「日立がいいですよ」とか「ソニーはどうですか」とか単独の銘柄を推奨するわけですが、彼らが求めているのは、たぶん、そういうことじゃないだろう、と。

最も運用に適した形でまとまった投資をしたいはずなので、僕なりに考えた日本株を30銘柄ぐらい組み合わせたポートフォリオを持っていったんです。それは先方が求めていたものだったようで、後にその州の年金基金は大口顧客になってくれました。

藤吉:その州には毎月、新たなポートフォリオを持っていくんですか?

阿部:僕が向こうに行くと、運用担当者が10人ぐらい待っていて、そこで「先月はこうでしたね」とか「こう組み直してもいいかも」とかレクチャーするんです。それが終わったら町一番のレストランにみんなで繰り出して、わーっと食事する。そういうことを1年半ぐらい続けて、ある日、出張から戻ったらオフィスがざわざわしているのです。何かと思ったら、ポートフォリオをまとめて注文が入っていたのです。その月はトップセールスマンでした。みんな僕が言ったことはハッタリだと思ってたから「本当にやりやがった」と。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

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