働き方

2024.04.28 12:00

「最愛の仕事」を見つけた40人に聞く「私の転換点」


COLUMN

現在版「プロティアン・キャリア」時代の幕開

日本型の終身雇用が限界を迎え、キャリアを会社や組織に任せる時代は過去のものになりつつあります。そこで重要になるのが、環境や社会の変化に応じて柔軟に対応できる「プロティアン・キャリア」という考え方です。プロティアンは、自由自在に姿を変えるギリシャ神話のプロテウスという神が由来。1976年にボストン大学経営大学院教授のダグラス・ホールが提唱したキャリア論ですが、私はこれに「キャリア資本」という実践的な概念を取り入れて、「現代版プロティアン・キャリア」にアップデートしました。

私たちは働くことを通じて「キャリア資本」を構成する3つの資本(知識やスキルなどの「ビジネス資本」、人との信頼関係からなるネットワークを意味する「社会関係資本」、金銭や財産などの「経済資本」)を蓄積しています。例えば、外国語の勉強をしてビジネス資本を貯めたり、新しいプロジェクトに参加して社会関係資本を貯めたりと、それぞれを蓄積することが自分の可能性を広げて、自律的なキャリア形成につながっていくという考え方です。

企業の中期経営計画と同じように、私たちも「中期キャリア計画」をつくって、3年後・5年後・10年後といった期間でどんな資本を増やしたいのかを言語化していくことで、今やるべきことがわかる。過去に何をしたのかではなく、これから何をしていくのかという視点でキャリア資産を貯めていけば、どんなに時代や周りの環境が変化しても、変幻自在に自分のキャリアを築いていける意思と能力が得られるのです。これからは他人比較と過去思考をやめて、自分軸で未来志向であることが必要なのです。

個人だけでなく、企業も社会や環境に柔軟に対応していかなくてはなりません。これまで日本企業のキャリア開発は、メンタルヘルスや個人の悩みに偏った心理学的なアプローチが主流でした。しかし、ロジカルな社会学的アプローチをとることが実は可能で、組織ぐるみで戦略的に社員の自律的なキャリア形成を支援していける。人的資本を活性化・最大化するための環境を整備していけば、人手不足の解消につなげることもできるのです。

実際に、社内公募制度の導入や副業の解禁、越境学習など、社員が自律的にキャリアを形成しやすくするための環境を整えている大手の企業も増えています。変幻自在な人材であれば、生成AIが隆盛しても、そのAIを使いさらに変化していくことができる。プロティアン・キャリアは、人生100年時代に不安を解消し、人も企業も豊かにするために必要な処方箋なのです。


田中研之輔◎法政大学キャリアデザイン学部教授、一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事。専門はキャリア論、組織論。著書34冊。2024年2月に新著『進化するキャリアオーナーシップ』、3月に『実践するキャリアオーナーシップ』発売。

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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