キャリア

2024.04.22 14:15

【全文】東大入学式 JAXA宇宙飛行士候補 米田あゆ氏祝辞 「勇気ある他者の行動を探せ」

役割を担った当事者として

ここまで自分自身で一歩を踏み出して経験を積むことのお話をしました。次に、自分だけではなく、身の周りの人々、さらには社会を一歩前に進めることについて考えてみましょう。そこで私が現在関わっている宇宙開発についてお話しします。

1969年アポロ11号が人類で初めて月面に降り立ってから50年以上経ち、再び人類は、月そして更にその先の火星を目指しています。タイムリーではありますが、昨日日米首脳会談において、アルテミス計画のもと、日本の月面探査ローバと日本人宇宙飛行士が月面に降りる合意がされた旨、発表がありました。今年1月には日本の月面着陸実証機SLIMが世界で初めての高精度で月面に着陸しました。また、国際宇宙ステーションはこれまで日米欧加露の国際協力のもと20年以上運用され、多くの知見が培われています。これらを活かして、人類や地球のことをより深く知るため、また未知なる場所へ活動領域を拡げるため、さらなる挑戦が始まっています。人類が新たな挑戦に臨むことができるのはこれまでの宇宙開発、国際協力の賜物であり、一人の人間、一つの国では決して成し遂げることはできなかったのです。

私自身は現在、宇宙飛行士候補者として主に、つくばと米国ヒューストンで訓練に励んでいます。基礎的な語学や体力訓練に加え、宇宙ステーションのシステム、緊急対応、航空宇宙工学、天文学、地学、宇宙医学、飛行機操縦など多岐にわたって学んでいます。JAXAの先輩宇宙飛行士をはじめ、NASAやヨーロッパ、カナダ、UAE、ロシアなどの宇宙飛行士の存在は大きく、自分の至らない点を目の当たりにし、圧倒され落ち込む時もあります。ですが、様々な方々と関わり、良いところを参考にし、協力し合って、日本そして世界の宇宙開発を一歩前に進めることに少しでも貢献できるよう日々の訓練に取り組んでいます。

これまでを振り返ると、世の中にはこんなにもすごい人が沢山いるのだと常に感じ、刺激や勇気をもらいながら歩んできたように思います。大学受験までにおいても、大学に入ってからも、そして社会に出てからもです。学問に対する探求心、努力を怠らない勤勉さ、行動力、一つのことを突き詰める集中力、マルチスキル、懐の深さ、周囲への気配り、責任感など多様な観点から、尊敬できる人達に出会えたように思います。

また、医師として働いている時には、小児病棟で闘病する子供達に出会いました。過酷な状況の中でも好きなことに一生懸命に取り組む姿や、自身も辛いにも関わらず、同室の同じように辛い思いをするお友達を必死に励ます姿に心打たれました。一人ではなく、一緒に頑張ることでより勇気が湧いてくるようでした。彼らの困難に前向きに立ち向かう強さや、周囲に対する心の奥底からの優しさに多くの学びを得ました。

こうした素晴らしい方々に出会えたことに感謝し、謙虚に周囲から学び続ける大切さを感じています。同時に、皆それぞれが役割を担った当事者であり、個として自身の力を高めながらも、互いに影響を与え合う存在であることを自覚しました。そして私自身、自分が他者から学びを得るように、自分も他者に良い影響を与え、周りの人々や社会の新たな一歩を後押しできる存在でありたいと思っています。
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