経済・社会

2024.02.10 07:30

これも平和を維持する手段の一つ、自衛隊員が礼式にこだわる理由

また、軍の礼式の重要なポイントの一つが「上に礼を尽くすこと」だという。「軍は厳格な階級社会です。大国でも小国でも、同じ階級なら対等に扱わなければなりません」(吉永氏)。かつて、現地に教官として派遣されている自衛官の案内で、米アナポリスにある米海軍兵学校を見学したことがある。校内を歩いていると、近づいてくる学生や他の教官たちは、自衛官の階級が上だと判断するとかならず立ち止まり、敬礼していた。

吉永氏は「これがきちんとできないと、軍隊ではなく、野蛮な武装集団という扱いになります。逆に礼式が徹底していれば、侮れない相手だという印象を与えることができます。これも立派な抑止力と言えます」と語る。自衛隊や米軍がみな、しわ一つない制服を着て、靴をピカピカに磨き上げているのも、「侮れない相手だから、戦わない方が良さそうだ」だと思わせるための大事な演出だ。

当然、相手はロシアだろうが、中国だろうが関係ない。吉永氏は「戦うかもしれない相手でも、平時にはお互いを尊重するというのが、軍の常識です」と語る。同氏が現役時代、自衛隊と中国軍の親善交流が行われた。訪日した中国軍関係者は歓迎式典の際、掲揚された日の丸に対して当然のように敬礼していたという。

吉永氏は「まあ、だからこそ、2018年秋にあった韓国政府による自衛艦旗(旭日旗)掲揚拒否事件は、自衛隊にとっては大きなショックだったんです。当時の自衛隊幹部はみな、あきれた表情でした。韓国軍関係者も内心では恥ずかしかったと思いますよ」と語る。海上自衛隊と韓国海軍は5年以上経った今も、この事件と、同年12月にあった海自哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件を巡る後遺症に悩まされている。すでに、陸自と空自は韓国陸軍・韓国空軍との間で、それぞれ個別の交流を再開したが、海自だけは韓国海軍との2国間交流を再開できていない。

日本と韓国周辺の安全保障環境が不穏な今、韓国政府と韓国海軍の一歩踏み込んだ決断が待たれる。

過去記事はこちら>>

文=牧野愛博

ForbesBrandVoice

人気記事