欧州

2024.01.18 10:00

撃墜のロシア軍機、ウクライナの周到な罠の餌食に? 専門家が謎解き

遠藤宗生
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ロシア空軍のA-50早期警戒管制機と2機のSu-27戦闘機。2010年5月、モスクワ州ヒムキで(Fasttailwind / Shutterstock.com)

ウクライナの防空兵器が14日、ロシア空軍の希少で貴重なベリエフA-50早期警戒管制機を撃墜し、イリューシンIl-22空中指揮機を損傷させた。A-50の搭乗員15人は全員死亡したとみられ、犠牲者には高級将校も含まれる可能性がある。

ウクライナ空軍は戦果を公表した際に「誰の仕業?」ととぼけてみせている。その答えは、ウクライナ空軍の射程約145kmのパトリオットPAC-2地対空ミサイルシステムと思われる。より射程の短い地対空ミサイルシステムであるパトリオットPAC-3やS-300の可能性はそれより低いだろう。

上部にレーダーを搭載した4発機のA-50をウクライナ軍がどうやって撃墜したのか、正確なところは不明だ。ソ連やロシアの軍用機について多数の著作がある軍事アナリストのトム・クーパーは、こんな仮説を立てている

ウクライナ軍のレーダー・ミサイル部隊がロシア軍機を罠に誘い込んだ──。

クーパーの仮説が正しければ、この罠は前日の13日に仕掛けられた。この日、ウクライナ空軍機、おそらくはスホーイSu-24戦闘爆撃機が、ロシアの占領下にあるクリミア半島各地でロシア空軍の施設を空爆。クーパーによると、複数のレーダーが破壊された。

ウクライナ軍はかねて、クリミアを守るロシア軍の防衛に対する攻撃作戦を続けてきた。その最新の動きでもある13日の空爆の結果、ロシア軍の地上レーダーの探知可能範囲は制限され、これまでどうにか生き延びてきたミサイルシステムに「死角」が生じることになった。とくに半島の北のほうでそうなった。クリミアの北部はもともと、飛来してくるウクライナの空軍機やドローン(無人機)、ミサイルは地形に隠されて見えにくいエリアだ。

そこで、ロシア軍の指揮官たちは当然のこと、だが愚かなことをやった。残り数少なくなっているA-50U(編集注:A-50の近代化版)は、ふだんはアゾフ海上空の南方面を飛行するが、指揮官たちはクリミアの大半がレーダーでカバーされるように、うち1機にもっと北上することを命じた。A-50の回転式レーダーは320kmほど先の航空機サイズの目標を探知できる。

A-50には、10人ほどの搭乗員を乗せた4発プロペラ機のIl-22が随伴する。Il-22は無線通信の中継プラットフォームで、搭乗員は通信やデータ転送の処理を通じてA-50に欠けている能力を補い、A-50の搭乗員を支援する。

衛星画像やレーダーデータによれば、撃墜されたA-50の飛行経路で最も北の地点は、ロシアの占領下にあるアゾフ海北岸の都市ベルジャンシクの上空だったとみられる。ベルジャンシクは前線から120kmほどしか離れていない。この地点は、ウクライナ空軍が南部戦線に配備しているパトリオット(保有する全3基のうちの1基)の射程圏内だ。

ウクライナ側の計略は、ロシア側に事前にほとんど察知されずに、また貴重なパトリオットも犠牲にせず、A-50とIl-22を仕留めることだった。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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