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2024.01.09 12:30

文庫化したら世界が滅びる? 『百年の孤独』がついに……

なぜ文庫化されるのか?

それにしても、なぜ今『百年の孤独』が文庫化されるのだろうか。背景には、近年のラテンアメリカ文学への注目の高まりがある。日本におけるラテンアメリカ文学の刊行スピードが、以前に増して上がってきているのだ。

2020年の寺尾隆吉著『100人の作家で知るラテンアメリカ文学ガイドブック』(勉誠出版)によれば、研究者・翻訳者の増加や、セルバンテス文化センター東京の開館後制度面での支援体制が整ったことなどの理由により、ラテンアメリカ文学の翻訳が近年急速に進んでいるとのことだ。当店でもグアダルーペ・ネッテルやホセ・ドノソなどの新刊を大きく展開し売り上げを上げていることから、ラテンアメリカ文学の読者の多さがわかる。

最近ではホルヘ・ルイス・ボルヘスの『シェイクスピアの記憶』が岩波文庫より発売されたが、売り上げが予想をはるかに上回り、慌てて追加発注をおこなった。20世紀の世界的ブームから、様々な出版社による邦訳書の刊行を経て、今「ラテンアメリカ文学」というジャンルがしっかりと日本に定着したと言えるだろう。

もうひとつの「世界が滅びる」作品

ちなみに、同じく「文庫化されると世界が滅びる」と言われている作品として、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』がある。1990年の初版以来『百年の孤独』と同じくずっと単行本のまま売上を伸ばし続けているイタリア文学だ。

東京創元社によると、こちらは現段階では文庫化の予定はないそうだ。『百年の孤独』の文庫化がSNSで話題になった際、こちらも一時話題になった。

「これが覆れば世界が滅びる」と言われるほど、決して文庫にはならないとされてきた『百年の孤独』。遂に文庫化されることについては、「ようやく……!」と感慨深い一方で少し寂しくもある。

しかし、文庫化の際には本書への注目が今以上に高まることや、安価で手に取りやすくなることで、読者が増えるのではないかと思うと大変嬉しい。上下巻などに分冊されるのか、分冊されるとしたらあの壮大な物語をどこで切るのか、ブエンディア家の家系図はついているのか、解説は…などと気になる点も尽きない。

たくさんの読者に届けるためにどのように展開すべきか思索しつつ、文庫版『百年の孤独』の新たな可能性に期待したい。ひょっとすると、その前に世界は滅びるのかもしれないが。


近江 菜々子◎紀伊國屋書店新宿本店勤務。コンシェルジュ、文庫担当を経て、現在海外文学を担当している。お客さまのお求めの本にぴったり合う商品を探しご満足してお帰り頂けるよう、情報収集と接客にさらに力を入れて邁進していきたい。

文・写真=近江 菜々子

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