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2023.10.16 15:00

世界最重量級のイスラエル軍装甲兵員輸送車「ナメル」 1両がハマスの手に

安井克至
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Leonard Zhukovsky / Shutterstock.com

パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスのテロリストたちが7日にイスラエルとガザ地区の間の壁を突破したとき、1日中続いた殺人と拉致を実行する前にイスラエル南部ナハル・オズのイスラエル軍基地をすばやく制圧した。

テロリストたちが獲得したものは大きかった。基地制圧では12両前後のアチザリットも奪った。アチザリットはイスラエル軍が鹵獲(ろかく)したアラブ諸国のT-55戦車の車台を使っている、かなり重量のある装甲兵員輸送車(APC)だ。

だが重量49トンのアチザリットは、ハマスがナハル・オズで奪った最も重いAPCではなかった。ハマスの戦闘員らは少なくとも1両のナメルも奪取した。世界でも最重量級で、最も防御力の高い兵員輸送車だ。

重量が70トンもあるナメルは巨大だ。ナメルよりもわずかに重い戦車もあるが、そう多くはない。例を挙げると、米国の最新型のM1A2エイブラムス戦車があるが、戦車の重量の少なくとも3分の1は砲塔と主砲が占める。ナメルは遠隔操作式の機関砲を搭載しているが、その重量は2トン未満だ。

ナメルの場合、防御のための装備がその重量を占めている。爆発反応装甲の下にはセラミックや鋼鉄、ニッケルが何層にも重ねられている。

ナメルはイスラエル軍が独自に開発した。その開発は1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻に端を発している。同軍の旅団が82年にレバノン南西部の街ティルスに侵攻したとき、パレスチナの対戦車ミサイル部隊が待ち構えていた。

イスラエル軍のAPCであるM113はミサイル部隊にとって格好の標的だった。重量14トンのM113をあっという間に数両破壊した。「すぐにイスラエル軍の歩兵は市街地でM113を降りて移動した」と米陸軍大尉のジェームズ・リーフは同軍機甲学校が出版している軍事専門誌『アーマー』に2000年に掲載された論文で説明している。「APCはすぐに支援の役割に追いやられた」。

薄いアルミ製の装甲を持つ1960年代のM113は、当時から対戦車兵器に対する防御力に乏しかった。イスラエル軍はこのことを辛い経験を通して思い知った。2014年にハマスの戦闘員がロケット推進擲弾でM113を攻撃し、兵士7人が死亡したのだ。

1982年の戦争後、イスラエル軍はAPCを適切なものにしようと決意。かなり重くする必要があったため、イスラエル軍は鹵獲した数百両のアラブ諸国のT-55戦車の砲塔を取っ払ってアチザリットに改造した。

だがアチザリットは一時しのぎのものだった。イスラエル軍はさらに重量のある新APCのベースとして新型のメルカバ戦車に目をつけた。ナメルの開発には時間がかかり、物議を醸した。しかし、最初の2両が2008年のガザ戦争に投入されたとき、その価値はすぐに証明された。そして6年後、イスラエル軍が再びハマスと戦争を始めたときには120両ものナメルが運用されていた。

かなりの重量であるナメルは、イスラエル軍が2014年にガザに侵攻した際、ロケットやミサイルによる攻撃をしのいだと報じられた。10月7日にハマスが鹵獲したナメルは、イスラエル軍が初めて戦闘で失ったものになる。この損失はミサイルやロケットではなく、テロリストの奇襲攻撃によるものであることは明らかだ。

ナメルの戦争は始まったばかりだ。ガザとの境界沿いに集結したイスラエル軍の旅団は約300両のナメルを運用している。これらのナメルは近いうちに戦闘に従事するだろう。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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