アート

2023.07.30 12:00

心の中に宿る「闇」をなくすために。ビジネス、アニメに何ができるか│松田崇弥x堤大介

Getty Images

「分断」という言葉は、この数年ですっかり社会に定着した。今年1月のダボス会議でも「分断された世界における協力の姿」がテーマとなった。

そんな「分断」の解消にビジネスで取り組んでいるのが2019年のForbes JAPAN「30 UNDER 30」受賞者のひとり、ヘラルボニー代表取締役社長CEOの松田崇弥だ。主に知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、福祉を起点に新しい文化創造を目指している。

今年2月に第50回アニー賞で2部門受賞した長編アニメーション『ONI ~ 神々山のおなり』(Netflixにて配信中)を監督した堤大介も、自身がアメリカでマイノリティとして「分断」と向き合ってきた経験から、本作を制作した。堤は、米カリフォルニア州と金沢の2拠点をベースに活動するアニメーションスタジオ「トンコハウス」の経営者でもある。

ビジネスとクリエイティブの両面から「分断」に向き合う2人に、それぞれの基盤となる考え方や価値観、問題意識を語ってもらった。


——松田さんは、どのようなきっかけでヘラルボニーを立ち上げたのですか。

松田:へラルボニーは僕と双子の兄・文登と創業したスタートアップで、主に知的障害のある作家さんの作品のライセンシングをしています。僕らの4歳上の兄が重度の知的障害を伴う自閉症だということもあって、知的障害に対するイメージを変えたいという思いから起業しました。
ヘラルボニー代表取締役社長CEOの松田崇弥(右)

ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに、知的障害があるからこそ描ける作品をさまざまな形で展開しています。僕らが著作権を管理して企業と作家を仲介することで、作家さんのもとにライセンスフィーが入り続けます。創業から5年たった今では、確定申告をするほど稼いでいる作家さんもいらっしゃいます。

大切にしていることは、最初に“アートのブランド”として認識されることです。作品を見た人にまずは、楽しいな、ステキだなと思っていただき、その後で福祉領域から生まれた作品であることが伝わったらいいなと。

堤:すごくシンプルですよね、へラルボニーさんの哲学とアプローチは。作品を買うことで”かわいそうな人を助ける”というのではなくて、自分の力で生きていくための手助けをする機関なのだと。

——堤さんが『ONI』を制作されたきっかけは。

堤:『ONI』という作品は、僕自身が30年近くアメリカに住み、マイノリティという立場で生きてきた経験からできた作品です。「社会の中で自分はこうあるべき」と考えてみたり、「優遇されている人たちのようになりたいけれどなれない」といったジレンマを抱えたりするなかで、「いや、自分は自分でいいのだ」と思い直すことがありました。そうやって単純に自分が“生きる術”として感じてきたことを作品にしたのです。


『ONI ~ 神々山のおなり』予告編 - Netflix

このように自分たちの哲学を貫いて作品制作をするためには、事業として成立させる必要があります。僕もアニメーションスタジオ「トンコハウス」の経営陣のひとりとして、その大変さは知っています。ですから、へラルボニーさんが残してきた実績、これからやっていくであろうことについて、期待も含めて聞いてみたいです。
次ページ > 「知的障害者はみんなアーティスト」というわけではない

文=久野照美 聞き手=山本智之 編集=田中友梨

ForbesBrandVoice

人気記事