北米

2023.07.23 13:00

米自殺ホットライン「988」 開設から1年も国民に浸透せず

遠藤宗生
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過去20年間で人口当たりの自殺件数が30%増加している米国では2022年、政府が3桁の電話番号を用いた自殺防止ホットラインを開設したが、この番号の存在が今も国民の大多数に知られていないことが、英調査会社ユーガブ(YouGov)の新たな世論調査で明らかになった。

米政府は昨年7月、4億3200万ドル(約600億円)をかけて危機管理センターを拡大し、全米自殺予防ライフラインを変更すると発表。「自殺防止ホットライン」を10桁の番号から3桁の「988」に変更し、利用者が電話やテキストで問い合わせしやすいようにした。

しかし、ユーガブの世論調査によれば、自殺防止ホットラインの番号を覚えている米国人はわずか14%、まったく聞いたことがないと答えた人は55%だった。これに対し、緊急通報用電話番号の「911」を覚えている米国人は92%に上る。

司法省は、新番号の目的について、緊急通報用電話番号の「911」に代わる覚えやすい電話番号として自殺防止ホットラインを再認識させ、「警察の役割を再定義」することと説明している。つまり、精神的な危機状態にある人が警察などを通じて助けを求めるのではなく、訓練を受けた危機カウンセラーと直接やりとりできるようにすることが目的だ。


自殺防止ホットラインが何であるかが説明されると、大多数の77%が、自分や知り合いに自殺念慮があったらこの番号を使いたいと答えた。

一方、自殺防止ホットラインに懸念を抱いている人もいる。調査では、高額なサービス料を請求されるのではないか(35%)、カウンセラーが警察を呼ぶのではないか(32%)、カウンセラーが自分の問題に対処する能力がないのではないか(32%)といったことを心配する声が上がった。

カイザー・ファミリー財団によると、昨年の開始以来、自殺防止ホットラインの利用件数は約500万件に上り、うち100万件近くが988の一環として用意されている「退役軍人危機ライン」を利用。260万件が電話、74万件以上がチャット、60万件以上がメールでの利用だった。

米国では数十年前から自殺率が上昇傾向にある。米疾病対策センター(CDC)によると、2001年には人口10万人当たり10.7人であった自殺率は、2021年には14.1人と31.7%増加。2019年と2020年には減少したが、2021年には新型コロナウイルス流行以前の増加傾向に戻った。

今年2月に学術誌Lancet Regional Healthで発表された論文によると、南北米大陸は、世界保健機関(WHO)の管轄地域の中で、自殺による死亡率が増加を続けている唯一の地域だ。また、CDCのデータによると、高校生の自殺念慮、自殺の計画や未遂を含む「自殺傾向」は、2011年の16%から2021年には22%に増加している。

19日に発表された論文によると、10代の自殺や自殺未遂は学校の開校期間と直接結びついている可能性があり、子どものメンタルヘルスが学期中に悪化することが示唆されている。この研究によると、自殺念慮は通常、4月と10月にピークを迎え、学校が休みになる夏場は低くなる。だが2020年にはこの傾向が逆転し、コロナ流行を受けて学校が閉鎖されると子どもの自殺傾向は低下したという。

forbes.com 原文

翻訳=上西雄太・編集=遠藤宗生

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