政治

2023.03.01 09:00

ウクライナ軍、不揃いの供与戦車で「混成大隊」編成

遠藤宗生
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ドイツ製戦車「レオパルト2A6」(Photo by Federico Gambarini/picture alliance via Getty Images)

スウェーデンのウルフ・クリスターソン首相は先週、ウクライナへのドイツ製主力戦車「レオパルト2」供与を決めた他国に追随し、スウェーデンも「レオパルトファミリー」に加わると発表した

スウェーデンが供与する戦車10両は、ドイツとポルトガルが供与する類似の戦車と同じ部隊に配備される予定で、ドイツ国防省はこれを「混成ウクライナ大隊」と呼んでいる。

ミソとなるのは「混成」という部分だ。ドイツが18両、ポルトガルが3両供与するレオパルト2A6は、強力な55口径120mmの滑腔砲を搭載している。一方、スウェーデンが供与する「ストリッツヴァグン(Strv)122」はレオパルト2A5の派生タイプで、44口径120mmの滑腔砲を搭載している。

2A6の射程が長い一方で、Strv122は世界トップクラスの戦車ではあるものの、効果的な砲撃には敵にかなり近づかなければならない。

ウクライナ軍が異なるタイプの戦車を同じ大隊に配備しなければならない背景には、欧米の同盟国からまとまった数の戦車を調達できていないことがある。

ウクライナには各国からそれぞれ少数の戦車が集まっている。ドイツ、ポルトガル、スウェーデンからの計31両で編成する大隊とは別に、ポーランド、カナダ、ノルウェー、スペインからの計36両のレオパルト2A4による大隊もつくられる。米国は、M1A2エイブラムス31両(1大隊分に相当)を供与する予定。英国から供与されるチャレンジャー2は14両のみだ。

ウクライナが旅団編成に十分な数を確保できる唯一の欧米製戦車は、レオパルト2の前身で、装甲の薄いレオパルト1A5だ。ドイツ、デンマーク、オランダ、そしておそらくベルギーは、ウクライナに送るために民間の兵器ディーラーから100~237両のレオパルト1を買い戻している。

軍隊は大隊を編成して戦うことが多い。大隊の指揮官は通常、兵たん面での効率化を図るために、同じ種類の戦車を配備することを望む。

また、戦車の種類が揃っていないと、とれる戦術は複雑になる。全長6.6メートルの滑腔砲を持つレオパルト2A6の射程は約5キロで、全長5.3メートルの滑腔砲を備えるレオパルト2A5(Strv122)の射程を1.5キロほど上回る。

混成戦車大隊の指揮官は、歴史にヒントを求めるかもしれない。第2次世界大戦中、ドイツ軍は「Kampfgruppen(カンプグルッペ)」と呼ばれる即席部隊を編成することで知られていた。

大隊規模のカンプグルッペには異なる種の車両が含まれることもあった。だが、組織の柔軟性と戦術的な攻撃で知られたドイツ軍の指揮官たちは、持ち得るあらゆる兵器に素早く適応。大砲を運ぶためのハーフトラック(半無限軌道式自動車)を偵察車として、対空砲の「FlaK」を対戦車兵器として利用した。

カンプグルッペの弱点は往々にして、兵たんだった。1944年のバルジの戦いでは、ドイツ軍のある大規模な機械化部隊が60種類ものトラックを保有していたことは有名だ。これほどまでに多様な車両を持つ部隊を維持することは不可能だった。ジェームズ・ケネディ米陸軍少佐は2000年に発表した研究論文で、同部隊には「予備の部品がほとんどなかった」と指摘した。

混成戦車部隊の兵たんはウクライナ軍の指揮官にとっても問題となる可能性がある。しかし、同軍が保有する旧ソ連製T-64戦車の数は減少しているため、同盟国から不揃いの戦車を少しずつ提供されても断れる状況にはない。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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