北米

2024.05.13 08:00

トランプ前米大統領の対中関税、「予想外の恩恵」がメキシコなどに波及

木村拓哉
1822

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ドナルド・トランプ前米大統領が2018年とその翌年に中国製品に課した関税がもたらした影響を、誰も、とりわけトランプは予見できなかっただろう。関税を発動したとき、その狙いは貿易に関する中国の不公正な政策を改めさせることにあった。中国は国内企業に補助金を出し、特許の侵害を野放しにし、そして中国でビジネスを行う米国企業に中国企業との提携を強制して技術や企業秘密を移転させていた。

政策を改めさせるという点に関しては、トランプの取り組みは失敗に終わった。中国の政策は変わっていない。エコノミストたちは中国製品への関税は米国の消費者にコスト増となって跳ね返ると警告したが、結局それは現実のものとならなかった。人民元がドルに対して安くなったことで、ドルで製品を購入する企業にかかる関税のコストは相殺された。

一方で、予想していた人はほとんどいなかっただろうが、関税は中国経済の見通しを弱め、メキシコやその他の発展途上国に実質的に恩恵をもたらした。間接的には、関税は米国南部の国境を越えてくる移民の流れを穏やかにするのにも役立っているかもしれない。

ジョー・バイデン大統領は前任者が行ったことすべてを反射的に反故にしたが、中国との貿易戦争に関してはむしろ積極的に動いている。

バイデンはトランプが導入した関税を維持し、中国への先端半導体と半導体製造装置の販売を阻止することで圧力をさらに強めた。また、バイデンは中国の技術への米国企業による投資を禁じている。加えて、国内での半導体製造に補助金を出し、米国に輸入される中国製品に新たに高い関税を課すと脅している。中国の貿易政策を変えようという試みは失敗に終わったが、一連の措置、特に当初の関税は中国の製造業の国外移転を促し、中国の発展の妨げになっている。
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翻訳=溝口慈子

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